眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』をみる

監督はマーティン・スコセッシ。2013年のアメリカ映画。

証券ブローカーもギャングも、ヤクザな商売をする人間は同じようなもの。いや、『グッド・フェローズ』や『カジノ』のギャングには、ギャング内のルールが存在していたように思うが、こちらにはそういう枷も箍もない。ヤクザよりも質の悪い素人…がやりたい放題やる、そんな栄枯盛衰の物語。

主人公のモノローグで話が進み、小さなところから始まってお金をもうけてどんどん成功していって、しかし裏切りや失敗で、警察組織に目を付けられて、仲間を売れと迫られて…。179分の長丁場を、また同じやり方で見せられるのかと、正直なところうんざりするのも一瞬、まるで変わらぬ馬力を持続するスコセッシの、過剰な語りようには圧倒されてしまう。カモに株を売りつけるときの己のテンションの維持に必要なものがドラッグとセックスであり、それらが依存しあうことで狂ったように騒々しい、異常なまでに力が漲った世界が目の前に開けていく感覚。半ば躁状態の人々を描き出すのに、映画が冷静でいて出来るものか、と言わんばかりの熱のこもりよう。しかも、スローモーションと音楽の使い方の絶妙さ。歌詞の意味は判らなくても、曲調と映像の見事なタイミングの合わせ方には鳥肌がたつ。あまりに暴力的で前のめりな展開、下品、下劣、退廃的な描写、それでいて華麗なミュージカル映画のような彩り方、酔ってみていると本当に頭のどこかが開いて行くような、そんな過剰さに満ち満ちている。素晴らしい。

あまりにもバカな場面がたくさんあって、特にディカプリオとジョナ・ヒルが喧嘩するところ。ドラッグをやってて意識は飛び気味、呂律も体もまともに動かない状態で、ののしり掴みあうバカバカしさ。スイスの銀行のくだりもバカみたいで、大体、ほぼ全員がバカ。バカになりきれない人間は、地下鉄に乗って貧乏な生活に甘んじるしかないのか。ディカプリオを、カリスマとして、輝く目でみつめるラストシーンのセミナー参加者たちの姿に、暗澹たる気持ちになるのが、おそらく普通の感覚。でも、この映画自体が一種のドラッグみたいなもので、これを本気に受け取った観客もいるんじゃないかな。ディカプリオが社員相手に熱く語るところも、教祖による説教みたいなもので、完全にそれを受け入れている社員たち同様、その言葉を参考に、アッパーな人生の拠り所に出来る映画だ。そんな罪深さも含めて、圧巻。