眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ザ・ウォーク ★★★★

監督 ロバート・ゼメキス/2015/アメリカ/NETFLIX/

フィリップ・プティは、WTCビルに魅せられる。あのビルにワイヤーを渡して歩けたら、世にも素晴らしいアートとなるだろう。彼は仲間を集め、あの手この手でビルに忍び込む。果たしてその挑戦は見事に実を結ぶのか。

実在の人物の冒険に基づく映画なので、どうなるのかは判っているとはいえ、中空に浮かぶそのときまで飽きさせないのは、事実の面白さよりも、映画的脚色と寓意性、そして童話的な見せ方によるものが大きい。パリの街並み、恋人となるアニーとの出会い、サーカス団で勝手に学ぶ綱渡り、師匠の教え、ニューヨークに聳えるWTCビル…。ロケーションもあるのに、どの場面も加工されたかのよう。そこには、箱庭のような独自の世界が構築されていく。CGや3Dを駆使した結果の世界観とも言えるが、リアリズムに徹したドラマにすることも可能なはずで、だがそうはしていないのだ。フィリップが口にする「美しい」と思うものや事、いわば個人的で極めて抽象的なものを、如何に具体的に映画的に表現するかというゼメキスの決断であり、志向。彼の信じる美しさはそこにある。美しさ(=アート)に対する奉仕、その行為を支えてくれる者への感謝、形がないが存在しているものへの畏敬の念が描かれる、そのことの美しさ。フランス人の物語を何故アメリカ人が描くのか、今はもう無いWTCへの想いが、そこに重ねられていることも感動的である。ビル潜入のプロセスが犯罪映画のようなのは意外な面白さで、嬉しい驚き。