眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ハードコア ★★★ 

監督 イリヤ・ナイシュラー/2016/ロシア=アメリカ/NETFLIX/

ヘンリーは、妻エステルの手によってサイボーグとして甦る。が、直後に武装集団とそれを率いるエイカンにエステルを奪われてしまう。逃げ出したもののどこへ行きどうすればいいのか戸惑うヘンリー。その前に、研究者であるジミーが現れる。エステルの匿われている場所を教えられたヘンリーは敵陣へ単身乗り込んでいく。

主人公ヘンリーの視点のみで描かれる、FPSゲームのような画面作り。一人称視点映画は、これまでに例がないわけではないにしても、娯楽映画としてここまで徹底させた作品は珍しいのでは。一人称視点アクションの数々はどうやって撮っているんだろうと仰天するようなアングルで描かれている。おそらくカメラを頭にでも装着して、ヘンリー役の人がカメラマンも兼任しながら本当に走ったり落ちたり跳んだりしているんだろうけれども。俳優がやるには無理な話で、だからこそ、声を出す器具をつけるまえに襲撃されてヘンリーが一切喋れないという設定になっているのだろう。が、それを設定だけで終わらせず、ヘンリーからの問いかけが出来ないことによって状況がよく掴めない、ミステリアスな物語を構築する要素としているところに作劇上の巧みさがある。

さらにSF映画としての面白さに満ちた作りになっているのも嬉しい。エイカンが超能力者であるという設定も面白いが、特に協力者であるジミーの存在が素晴らしい。本人は体が不自由。が、何人ものクローンを手駒のように使う。意識をクローンに瞬時に乗り移らせることが可能なので、死んだと思っていると別の場面であっさり再登場、逃げたかと思うとそのすぐそばで立ち上がるといった描写は、これまでにあまり見たことがない。まるで藤子・F・不二雄の「バケルくん」のようだ。あれはロボットだったけれど。クライマックスのサイボーグ戦士軍団との乱闘も何が何だかよくわからないけれども凄まじいことになっているが、SF的にかっこよい絵面をよく判っている人が撮っている感じがある。SF風味のアクション映画というよりも、アクションがたっぷりのSF映画という印象にまとめ上げるあたりに、監督以下、スタッフの意外な力量を感じさせる。