眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

来る ★★★★★

監督 中島哲也/2018/

「渇き。」で残忍なハードボイルド、「告白」で冷酷なサスペンスと、極上の血の映画を撮っている中島哲也が次にホラーに着手するのは、至極当然のなりゆき。

家事や育児に全く関心のない人間、家庭内格差や生まれ育ちについての偏見や差別、女性がひとりで子育てする上での社会の無情…などなどを、丁寧に見せていくさまはもはや嫌がらせに近い。過去も現在もそしておそらく未来も、おぞましい縛りが日本という国全体に蔓延し続けていることを、ホラー映画という枠の中で強烈に描き出す。

現実社会の恐ろしさと息苦しさとが、土着的とも言えるホラー世界と結びついたとき、その恐怖は強大なものとなり、決して逃れらない闇の世界の存在を強固にさせる。ぼぎわんが、実体をもった怪物や現象ではなく、具体的なものとしては姿を見せないこともあり、身近に忍び寄ってくる怪異と、現実の中の恐怖とが嫌な具合に混じり合い曖昧となっていき、現実と虚構の被膜が溶けてしまう、その巧みさ。

一方で娯楽映画としての強度もかなりしっかりとしているため、現実の重さを伝えるための偏った映画になっていない。松たか子演じる、最強の能力者の登場と共に盛り上がる(登場シーンの後ろ姿のシルエット!そのヒーロー然とした姿!)ぼぎわん殲滅戦は、日本中(だけではないのかもしれない。ハングルも見えるから)から宗派を越えて、闘いのために人々が馳せ参じる様子に、ワクワクする気持ちを抑えられない。クライマックスは、マンション周辺を囲んで彼らの力を持っての総力戦が行われるという凄まじさ。各宗派のあれこれや段取りなど、西洋人にはかなり受けるのではないかと思われる。ぜひとも海外の公開を目指すべき。

時折差し込まれる美しい花や毒々しい照明のカットの強烈さは、過去の作品のポップさと共通するものだが、「告白」で、それが内容と密接な関係を得たように、今回は、人が不幸になればなるほど毒の花が咲き乱れるというイメージに繋がっているように思え、グロテスクの美学を感じずにはいられない。

ロケ、セット、俳優にお金がきちんとかけられたホラー映画は、今の日本では貴重だが、それに見合うだけの出来栄え。とても面白く観た。