眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

8月19日(日)


柳生十兵衛秘剣考(高井忍/創元推理文庫)』

男装の女武者・毛利玄達は剣の道を極めんと、廻国修行の身の上である。彼女と何故か腐れ縁で、何かと旅先で出会う相手が柳生十兵衛。この二人の前に、不可思議な話が度々持ち上がる。60年前に死んだはずの卜伝の名を騙る謎の人物は何者か、草深甚四郎は水鏡という面妖な技で離れた場所にいた人間を斬り捨てたというがその真実とは、宮本武蔵は真新陰流の秘太刀・八寸ののべがねと如何にして対峙したか…。

魅力的に提示される謎を、玄達をワトソン、十兵衛をホームズ役として解き明かしていく、時代小説で本格ミステリ、という趣向が何よりも面白い。しかも軽快な運びで肩を凝らせることなく、時代小説として面白く、また玄達と十兵衛のやりとりの微笑ましさも愉しく…と文句のつけどころがない。ミステリ的には貴船神社の老神官が語る、草深甚四郎の奇っ怪な技を巡る『深甚流〝水鏡〟』が白眉。ミステリの醍醐味ここにあり、な愉しさ。さらにスケールの大きなミステリ時代・剣豪小説を期待したい。

細谷正充の解説も、過去の時代ミステリや、ここに登場した剣豪たちが活躍する諸作品を紹介した簡単なガイドにもなっているのが嬉しい。読書の幅が広がろうというものです。