眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

8月26日(日)


桐島、部活やめるってよ』於:アポロシネマ8

監督は吉田大八(喜安浩平と共同脚本)。

とても良かった。今年の年間ベストテンはこれで決まりだな。

桐島という、運動も出来て、人望も厚い生徒が突然部活をやめる、となったことから、学校内に不穏な空気が張り詰めて行く。桐島の周囲の人間たちの焦りや不安が描かれてサスペンス映画ではないのに奇妙に緊張感を高めて行くのは、当の桐島本人は、学校にも来ず、連絡しても返事が無く、一体今どうしているのかが全く分からないから。宙ぶらりんの状態に置かれた生徒たちの動揺が、じわじわと広がって行く様子がどこか恐ろしさを感じさせる。水面下に広がる不安ゆえだろう。

その一方で、桐島の不在になど全く関係がない、関心もない生徒たちの話として、バカにされている映画部の存在がある。無論、桐島至上主義者との対比として存在しているのは明らかながら、これが桐島不在の動揺と、ドラマとしてどう噛み合うのかが良く判らないまま展開していくのが面白かった。クライマックスから終盤、ラストシーンにかけて、実はポスターのメインにいる映画部の神木龍之介以外にもうひとり、影の主役がいて、その二人の気持ちの交錯が、ドラマを決着させる重要なポイントとなっていることを知る。この、見事に収斂されていく屋上のクライマックス、沢山の生徒たちの感情をよくぞあそこまでまとめ、映画の盛り上がりとして外さない見事な描き方に脱帽。気持ちの昂揚を抑えられなかった。素晴らしい。

野球や映画やバレーやバトミントンが好きだけど、好きだからそ限界が判っている。努力しながらもあきらめている。可能性がないわけではないが、限りなくゼロに近い。そこでどう考えるのか、どう動くのか、という気持ちの持って行きようが、桐島を中心としながらも、登場人物それぞれで当然のごとく違い、しかしそれぞれに葛藤し結論めいたものに近づいていく。ドラマは金曜日に始まり、進路指導の用紙提出の期限である水曜日の直前、火曜日の夕方に決着する。そこにも収斂されていく。

風景、背景の中で人が歩くのが目立つ。リズミカルに、映画のテンポを司るかのように生徒たちが歩いている。その中で、ドラマを動かす生徒たちは動かない。でもその周囲では流れるように人が歩いている。自分の世界では時間が止まっていても、周囲にはそれは関係が無い。桐島を中心として右往左往する生徒たちの世界が、実は学校という世界の中では大勢とは隔絶された話であることを感じさせるものにもなっていた。

生徒たちが全員素晴らしい。主役クラスもその取り巻きも、それぞれに血が通い、自分の人生を生きている。捨てキャラはなし。憎まれ役もなし。胸が熱くなる。特にキャプテン。吹奏楽の部長。神木くんの「あやまれ、おれたちにあやまれ」「こいつら全員食い殺せ!」「この世界で生きて行かなければならないんだ」という台詞。バレー部のひとりの「それだけやってもこの程度なんだよ!」などなど、いたるところに胸をうつ瞬間が転がっている。

あと、見方によっては、学校における新たなるヒーローの誕生を予感する物語でもあったな、と。すべては菊池がヒーローになることを覚悟し決断するまでのドラマであった、とも言えそう。