12月11日(火)の日記
どえらいトリックのミステリが読みたいと思い、手元の積読本から『ロシア幽霊軍艦事件』(島田荘司/原書房)を。5、6年前くらいの作品だろ、と思っていたら2001年に出版されていると知り愕然とする。大正八年、芦ノ湖畔に出現したロシアの軍艦の正体とは?というどでかい謎がメインのミステリなので、これは面白いとわくわくしていると、高木彬光の傑作と信じて疑わぬ『成吉思汗の秘密』やジョセフィン・テイの『時の娘』など(古いねえ)を思い出させる歴史ミステリとなる。トリックよりも埋もれた歴史の裏側のドラマが表出してくる物語の方がメインで、島田荘司のある意味生真面目、大真面目な部分が大メロドラマを描き出す。エピローグの部分はもう歴史ロマンとしか言いようがなく大変満足。『異邦の騎士』とか『夏、19歳の肖像』とか、吉敷と通子のドラマとか、メロドラマ性は島田荘司には欠かせないものだな、と久々に読んで実感した。きっとロマンを信じているんだと思う。歴史のロマン、本格探偵小説のロマン、そして何より物語のロマン。後の新本格の人たちはそういうものを信じてはいまい。島田荘司のこの一種アナクロともいえる志向性に魅力を覚えるな。何よりも物語の持つ力、愉しさがあると思うんだ。読み漏らしているものをちびちび追いかけて行こう。
- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2001/10
- メディア: 単行本
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