眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『Another アナザー』(綾辻行人/角川書店)を読む

綾辻版『ファイナル・デスティネーション』…。

理不尽過ぎる話しな上に、今年はこれで回避されたけれど、大元の現象そのものは何も解決していない。なによりも違和感を覚えるのは、人の記憶も記録も改竄、改変されていく、全てが終わったあとにはそれが元に戻る…というなんとも都合のよすぎる設定だろう。しかし、良く判らない設定をホラーゆえに投げっぱなしにしてもかまわないからそうなっている、とは思いたくはない。記憶の改変というのは、現実の人間社会、人そのものが意識・無意識を問わずやることで、曖昧で、理屈に合わないこと、である。曖昧模糊とした人の記憶についての物語であり、それは都合のよいように改変されるものであり、それが人であり、人の業であり、人生であり…。物語の中心にはこれもまた理不尽なまでな死が鎮座しており、避けようのない事態、死という、人生と世界の終焉に対する綾辻の今の心境が滲んでいるように思えた。曖昧な人の世の営み、それとこの作品のホラー世界の奇妙な世界観は共通しているといっていい。現実が白黒の付けられないものであるなら、それを反映させた作品世界でも明快な解決はないのではないか…と。プロの作家としては、それを踏まえて面白い小説を書かねばならぬのだろうが、やはりこういう心境にも辿り着いてしまう瞬間もある、という感じ。終盤の怒涛の展開は、ちょっとどうかと思ったし、正直、掛け値なしに面白いとは言えない内容だったが、理屈で割り切れない世界観は、作家の心理の表出としては悪くはないと思った。また、辛いこと、悲しいこと、心に受けた傷を、人は時間と共に忘れることで癒して行く。曖昧さが与えてくれた、それは優しさではあるまいか。

Another

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