眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

長谷川伸傑作選 瞼の母(長谷川伸/国書刊行会)


代表作がたっぷり読めるのが嬉しい。『瞼の母』『沓掛時次郎』『一本刀土俵入』『雪の渡り鳥』『中山七里』『勘太郎月の唄』『直八子供旅』が収められている。長谷川伸がハードボイルドだと言いだしたのは誰かは知らないけれど、確かにそういう読み方が出来る。映画の『シェーン』がまさしく長谷川伸世界を西部劇でやっていることも、こうして読んで見るとなるほどそうだなあ、と改めて思う。私が一番好きなのは『沓掛時次郎』。映画も傑作だったが、やはり元がこれだけ素晴らしいのだな。あと意外な面白さだったのが『雪の渡り鳥』と『中山七里』。『雪〜』のお市を巡る銀平と卯之吉の対立。最終的にはスパッとしているとはいえ、そこへ至るまでは結構泥々とした感情によって物語が進む。また『中山七里』では、政吉の死んだおさんへの想いが、そっくりな顔したおなかに出会ったことで、ねじれた恋慕が心の底の冷たいところをえぐり出す。おなかの夫である徳之助に殺意を抱く政吉の心情など、落ち着きがなくクルクルと変わる感情の高低の差が恐ろしいほどで、単純なハードボイルドとして読み進めることは出来ない。どの作品も面白く、そして泣ける。他の作品も是非読みたい。