眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

復讐捜査線 感想

監督はマーティン・キャンベル

オリジナルはイギリスのテレビドラマ。近々スティングレイからDVD化される予定の『刑事ロニー・クレイブン』がそれ。ドラマ版の監督だったマーティン・キャンベルが再び登板してのリメイク。

話題となるのは久々のメル・ギブソン主演作というところ。それが大阪では梅田ガーデンシネマというミニシアターでの公開というのはちと寂しいところではあるが。メル主演で、ポスターデザインやこの邦題から、ド派手なアクションが展開する内容かと思いきや、非常に地味なサスペンスである。しかもどうして娘が殺されたのか、捜査を進めるうちに明るみに出るのは、今の日本にとってはタイムリー過ぎる恐るべき事態であった、という話。捜査の過程にアクション要素はほとんどなく(ないわけではないが、アクションが主眼とはならない)、地道に関係者に話を聞いて回る、というあまり動きのない展開に終始。が、事件の隠蔽を図る政府から雇われた謎の男、レイ・ウィンストンが、いわばディープスロートのように不穏で忌まわしい空気をまといながらも、進むべき道をメルに示し、奇妙に心を通わせる様子が描かれて、これが作品には不思議なアクセントとして機能して、ゴリゴリのサスペンスだけではない、ドラマ的なふくらみを得ることに成功しており、結果、父親の物語、というドラマの骨の部分をじわりとあぶり出している。

マーティン・キャンベルの演出も焦らずどっしりとしたもので、じわじわと緊迫感を高め、フィル・メヒューの撮影も夜のしっとりとした肌触りを感じさせる。部屋に一人だけでいるメル・ギブソンの姿をとらえるショットは、室内の薄暗さにリアルな孤独を感じ、胸がせつない。その反面、陰謀を隠す大企業のオフィスは丘の上に立つ巨大なビルにあり、社長のダニー・ヒューストンが見降ろす森の緑と陽光はうそくさいほどに美しく輝く。悲しみと怒りを秘めたメルが背負う暗さに対して、ダニーは光に包まれている。その薄っぺらな嘘っぽさは、キャンベルが監督していると知って見るせいもあり、どこか007の敵のような不気味さとこっけいさを感じさせるのも面白い。

クライマックスは「よれよれになって余命限界のメルが単身、ダニーの邸宅へ突撃するという、思いもよらぬアクションとなり、思わず拳を握りしめてしまう。ここまで命をかけた捨て身の突撃は、最近見たことが無い。そして丁寧にドラマを紡いできたスチュアート・ベアードの編集がここに至って一転し、苛烈なアクションを見事に見せきるのが嬉しい。黒幕たちの最後も思わぬ決着で驚かされ、ウィンストンの覚悟にもほろりとさせられた。

やはりメル・ギブソンはこういうちょっと狂ったような役をやると絶品であることを再認識した。彼はどこかおかしい人ばっかりを演じ、監督してきた印象があり、彼自身の私生活もふくめて、そのイカレ具合は得難いものであると思わざるを得ない。良い俳優だな、と感じ入った。