眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

この愛のために撃て 感想


監督はフレッド・カヴァイエ。2010年のフランス映画。

前作の『すべて彼女のために』は未見で、そのリメイクが9月に日本でも公開される。そっちはポール・ハギスが監督でラッセル・クロウ主演。しかし『この愛のために撃て』を見てみると、ハギスに撮らせず自身でリメイクさせた方が良いのではないか、と思えてならなかった。カヴァイエ、そのうちハリウッドで撮るね、間違いなく。そう確信してしまったほど、この作品は面白い。85分というタイトな上映時間に詰め込めるだけのものを突っ込んで、しかもまるでダレさせずに一気に疾走するサマは、ハリウッド映画の叩き台になるためにあるかのような凄まじさである。

筋立てそのものは単純だが、登場人物が多い上に彼らは右往左往するので、ストレートな追跡劇にならず、意外と波瀾に富んだ複雑な模様を形作る。物語の意外性ではなくて物語り方のテクニックで、観客を引きつけ引っ張る辺りが見事。アクション描写がこの作品の大きな魅力だが(地下鉄駅構内の追跡!)、語り方のうまさ、という点は見過ごせない(脚本はカヴァイエとギョーム・ルマンの共同)。が、反面登場人物の心情面がその犠牲になった感があり、「フレンチノワール」と言い難い気がするのはその点で物足りなさが残るためだ。看護助手のジル・ルルーシュと犯罪者のロシュディ・ゼムの関係も、あれくらいでいい、という意見もあるだろうが、やはりもう少し踏み込んでほしい。また、ルルーシュは、事件に巻き込まれると、ただの人の割には容易に人を傷つけたり、銃を撃ったりして、そこにほとんど迷いがないのも疑問に思う。どこにでもいる普通の男、ということになっているらしいが、とてもそんな風には見えず、むしろ過去に何か後ろ暗いところがあったのではないかと、そんな風に思ってみてしまったよ。前科はない、と身元確認で言われてるけど。ま、無い物ねだりだろうか。

あとクライマックスで、「トイレでもみあう嫁と女性刑事のところへルルーシュが助けにくるシーンはつながりがおかしくないだろうか。妻を探して警察署内を探して回るうちに警官と殴り合いになり、床に倒れたところで鉄アレイみたいなのを見つけるカットの次に、トイレの場面に繋がっているのだが、あまりにも突然過ぎるルルーシュの登場に、どうしてそこに妻がいるのか判ったのか、その説明がない。もしかしてフィルムを噛んじゃってちょっと飛んでしまった上映ミスか?とも思うのだが、どうなんでしょうか?」本当に面白いこの映画の中で、そのシーンだけがちょっと気になって、実際のところどうなのか、と。そこを除けば、あとはもう言うことなしのノンストップアクション映画。どうしてもっと話題になっていないのか、ならないのかが不思議であり残念でならない。