眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

まほう少女トメ(1)/作・武内優樹 画・おおひなたごう(エンターブレイン)

作・武内優樹とあっても、こちらからすればとりあえず、おおひなたごうの新刊である。月刊コミックビームでの連載を知らない者からすれば、当然いつものギャグ漫画を期待して読み始めるだろう。が、それが『鬼女の復讐』の冒頭ですぐに大きな間違いであると気付く。そう、これは本気で本格的なホラーマンガなのであった!

謎のまほう少女トメは、人の願いをひとつだけ叶えてくれる。誰もが幸福になりたいために願っても、それが決してそう結びつくことはない。『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造を思い出させるが、トメには願いをかなえた結果どうなるか、までは見えていない様子。ある意味では無邪気ともいえるが、軽く願っただけのことが重大な事態を引き起こすことを考えれば、トメによる破滅の方がダメージが大きい。無邪気や善意による破滅。だからこそより恐ろしい。

物語はバリエーションに富んでいるが、これは明らかに武内優樹の作りだす奇怪な発想の賜物だろう。しかも発想だけで終わらせず、きちんとその怪異を物語として紡いでいく。雰囲気や絵の凄惨さで逃げさせる容易さを頑として拒み、理詰めの作劇を目指しているところが立派。だからこそどの話にも読み応えがあるのだ(特に面白かったのは「マニアック」。いわゆるバカミスとしても読めるミステリ)。そして、恐怖と笑いが紙一重とはよく言われるが、おおひなたごうはそれをきちんと受け止めていて、これまでのギャグ漫画とは違う地平を切り拓いてしまっている(といってもところどころに変な笑いも入っているし、「蘇生」の「火葬されてやる!」とかは結構微妙なところ)。が、これまでの作品もある意味不条理な世界でもあったわけで、元々本格的なホラーとはきわめて近いところにいたのかもしれない。まるで気付いていなかったが。これでまた愉しみな作品が出来た。続きに期待したい。