眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

シャンハイ 感想

監督はミカエル・ハフストローム

監督はスウェーデン出身、脚本家はイラン、撮影はフランス、音楽はドイツ、出演者も、アメリカ、中国、日本、ドイツ…と国際色豊かなのには驚く。あまり評判はよろしくはないようだが、そう思って見る映画は、たいていそれほど酷く思えないことが多い。それなりに愉しんで見られた。太平洋戦争前夜の上海、という時代を舞台にしており、スウェーデン人には少しハードルが高いのではないかと思われる題材だが、逆にそれがいいのか、映画自体は脚本に描かれていることを淡々とこなしていくように展開し、結果トータル105分という、大作クラスと思われる規模の映画にしてはコンパクトな上映時間になっている。

スパイものとかサスペンスものとか、一見そういった雰囲気は満点な映画ではあるのだが、実際には女を巡る、男たちの想いが錯綜する地味な話である。事件の真相もサスペンスに結びついたり、大きくドラマを盛り上げたりはしない。哀切に満ちた苦悩と絶望があるばかりだ。スケールの大きな世界観の中での、そのこじんまりとした佇まいには好感を抱く。そこのところは映画としては失敗なのもかもしれないが、緊迫した時局にもかかわらず私情で動いてしまう男の愚かさというのは、哀しく切ないではないか。こういう映画は嫌いになれない。「キューザックとコン・リーを見逃す渡辺謙の場面」はじわっと来た。

しかし話がそれなりに複雑なのに、余裕なく詰め詰めで展開するために全体像が少々見え辛い。監督が、ミカエルはミカエルでも、ソロモンの方だったらもう少し判り良い映画になっていたのではないか、と思う。とはいえ、チョウ・ユンファは、眼の醒めるようなカットの繋ぎで往年のアクションスターとしての輝きを、コン・リーの堂々たる熟女っぷりには、素直に降参したくなる濃厚な色気を感じさせ、なかなかツボを抑えた俳優の魅力を見せてくれる。となれば、メロドラマであるこの映画には、この監督は決して的外れな抜擢ではなかったということかもしれない。