眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「猿の惑星:創世記ジェネシス」 感想

レイトショーで『猿の惑星:創世記』を見る(於:アポロシネマ8)。

旧シリーズの『猿の惑星・征服』をベースに、いわばシリーズ前日譚として語られる物語。チンパンジーのシーザーの物語としては申し分のない英雄誕生譚として愉しめるものだが、人間側のドラマがどうにも惜しい。結果として父・ジョン・リスゴー(『ハリーとヘンダスン一家』を猿繋がりで当然思いだす)を実験台にしてしまう息子のジェームズ・フランコには心理的葛藤が足りず、その関係も食い足りない。まして「人類を破滅に導く元凶」を作りだすほど、彼の行為は切羽詰まって狂気の縁に立っているくらいなのだが…。母親の不在はシーザーと同様で、主人公二人に重ねられるはずの背景だがそれもうまく生かせていない。リスゴー、フランコ、シーザーは父と子の三世代であり、つまりこれは父親と息子についての物語でもあったはずだが、そこのところが見えにくい。霊長類の保護施設の経営者(?)が実は父子であるというところにも、本来向かうべきであろうと期待した方向性がほの見えるのだが、遂にはそういうドラマとしては発展しないままだったのが個人的には残念。フリーダ・ピント演じる獣医なんてほとんど意味がない。とりあえず女優さんも出ています、程度の扱い。だけどピントさんは凄い美人ですね。インド系みたいだなあと見ながら思っていたがやはりムンバイ出身。もっと活躍してほしい。

が、先に書いたように、新たな地球の覇者の誕生の物語としては実に嬉しい見世物であり、段取りを踏まえて施設内で人心を掌握していく様子、怒りが爆発して外へ飛び出し街をパニックに陥れるクライマックスと凄まじい盛り上がり方で素晴らしい。ゴリラ、オランウータン、とキャラクターが立っているところもカッコいい。完全にヒーローとして描かれているのも面白い。特にゴリラ…(泣)!そして何と言ってもアンディ・サーキス。正直、まだ子供の頃のシーザーの部分はありがちなCGアニメーションにしか見えず、まったく乗れなかったのだが、アンディの演技が物を言う成長してからのシーザーは実に魅力的であった。自分という存在に悩む姿や表情は彼の演技なくしては成立しない繊細さがあり、シーザーというキャラクターの内面に圧倒的な厚みを与えている。そしてそれがヒーローとなる力強さへと変化していく下地として如何に重要であることか。人間を殺そうとする仲間に対しては、殺すな、と指示する姿も圧巻の迫力。あとそう、彼が「初めて言葉を口にする」場面!今年見た映画では、一番驚いた瞬間だった。ま、そうなんだよな、確かにこれで次に繋がって行くんだけどもさ、想像していなかったことが起きた!という衝撃があった。場内がシーンと静まったような気もした。おそらく観客が皆、えっ!と思ったんだろう、と。

あと特筆したいのは音楽。担当はパトリック・ドイルなので全編鳴らしまくり。相変わらずで嬉しいです。