眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

アクシデント 感想


シネマート心斎橋にて『アクシデント』を見る。

ジョニー・トープロデュースによる、ソイ・チェン監督のフィルムノワールとなれば観ないわけにはいかず。2008年製作というから公開がずいぶん遅れたものの、いや公開してくれて良かった。これは実にノワールな空気が濃密に描かれる一方で、心理サスペンスとしても観る者を離さない緊張感に満ち、全く飽きさせずに見せきる素晴らしい作品だった。

ルイス・クーがボスの殺し屋集団による、いわゆるピタゴラスイッチ式の連鎖反応的殺しのテクニックがまず何よりも面白いのがいい。冒頭部分での、偶然が重なり人が一人死んだようにしか見えない現場にふらりとルイスが現れ、絶命するまでの間−救急車が間に合うかどうか−じっと死に向かうターゲットの死にざまを凝視し続けるところからして、プロフェッショナルの仕事への集中力というよりも行き過ぎた狂気をはらませた感じがいきなり立ちこめる。映画はこのあと、疑心暗鬼状態に追いつめられていく彼がほぼ完全に一人で立ちまわる非常にシンプルな展開となり、一気にサスペンスが高まって行く。観る前はチーム物…ジョニー・トーの名前があるせいで、『ザ・ミッション』とか『ブレイキング・ニュース』とかまあ何でもいいが、そういういったある種の群像劇的なものを想像していたので、これは意外な展開だった。事件の黒幕だとにらんだリッチー・レンに次第に近づいていく様子、彼が仕組んだと確信していく様子など、ルイス・クーの冷ややかさと、反面のゆらぐ普通の人間としての心情が重なりあい、怪しい空気をまとうリッチー・レン共々、一体どこに彼らの本心があるのかということも良く見えないまま、映画はクライマックスへと突き進む。台詞はかなり削り込まれて、映画全体が静けさに包まれ、それがクライマックスで出現するある事態の圧倒的な暗黒感へとも繋がるようだ。あれは地獄への入り口だったのだとしか思えない。

ピタゴラ式連鎖殺人テクは、途切れることなく繰り返し続く円運動の連続のようでその果てに終わりが強引に訪れるものであり、特に二つ目の雨の中での殺人はそれがより強い印象となるが、ぐるぐると円を描くサマはルイス・クーの人生と行動そのものともいえて、やがて因果応報のごとき終着点へと向かう。その無常感に呆然としつつ、エンドロールを見つめるのみである。とても良い映画を見た。


顔のない眼』のブルーレイが届いた。子供のころ、何で?というほど繰り返し再放送されて、そのたびに見ては恐ろしい映画だ、と震えていたフレンチホラーの傑作。きちんと見るのは何年ぶりだろう。ワクワクしてしまう。




音楽はモーリス・ジャールだったのか。軽快なテーマ曲がうらさびしさと不穏な空気を逆に浮かび上がらせる。