眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ミッション:8ミニッツ 感想

監督はダンカン・ジョーンズ。脚本はベン・リプリー

『このラスト、映画通ほどダマされる』という変なキャッチコピーが全面に出ているけれど、結末で衝撃を受けるといった類のどんでん返し至上主義的な映画では全然なくて、このコピーがいちばんのだましだったのが衝撃的だった。

小気味の良いSFサスペンス、あるいはアクションとして作ることは当然可能だったはずだが(たとえばルイス・モーノーの『リバース』や、ジャック・ショルダーの『タイムアクセル12:01』など)、まるでそんな風には展開しない。では何が見どころになるというと、主人公であるジェイク・ギレンホールの感情の揺れ動きにある。ジェイクの心理と行動に映画は寄り添い続けるのである。

SF的意匠は申し分なく興味を引くものだが、その奥には、避けられない死を目の前にした男が何を思い、何を悔やみ、どう行動するのか、というドラマがあり、そここそが映画の肝である。そして、終わる世界をなんとか次に繋げられないか、というしぶとさに、心が震えるのである。ラスト近くのストップモーションは、そうあってほしい思いが見事に描き出された一瞬だった。世界が平和であってほしい。未来は明るくあってほしい。特に、日本はもちろんのこと、世界でも未来は決して明るいとは思えない状況だけに、この瞬間は結構切実に胸に迫る。夢見る理想は現実に叶いそうもなく、しかしそれでもそれを願うからこそ、だからこそとても美しい。

SFとしての面白さや、壁を越えたラストシーンなど、それらも勿論素晴らしいのだが、しかしそれよりもひとりの男の決断と行動の部分に惹かれた。共演のミシェル・モナハンも良かったが、ヴェラ・ファーミガが儲け役。『フェイク・クライム』の出ているみたいなのでまた愉しみがひとつ。