眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

1911


監督はチャン・リー。そして総監督としてジャッキー・チェン

ジャッキー出演作100本記念の大作という触れ込み。確かにそれに相応しいかもしれないスケールの大きな作品で、辛亥革命をテーマに中国の国威高揚気分を盛り上げる内容になっている。が、ジャッキー・チェンは香港の人、という認識で生きて来た私の様な人間にとってはジャッキーが中国への熱意を示す度になんだが複雑な気持ちにもなる。トニー・レオンが「私の愛した香港はもうない(1997年の返還で)」と発言したのとは180度反対の方向を向いたジャッキーの姿勢は、それはそれでいいのだろうが、単純にジャッキー・チェン映画、というジャンルの映画を見たい人間にはやはりさびしい思いをさせるものである。映画としては立派な体裁でまとめられていても、この作品にもそういう物足りなさははっきりとある。何よりもこの映画の場合は、ウィンストン・チャオ演じる孫文とジャッキー演じる黄興との友情が一つの柱となっており、つまり言って見ればダブル主演であるわけで、さらにリー・ビンビンとの愛情の物語でもあり、名もなき革命戦士たちのドラマでもあり…と、ジャッキーもその歴史の中の一人、という描き方にならざるを得ず、ジャッキー映画としての色合い自体もかなり薄いのが残念である。しかも描き込む不足というか、本当はもっと長かったのをカットした感じもあり、特にリー・ビンビンとの関係は相当に物足りない。まあ個人的な希望でいうのなら、孫文と黄興の友情にもっとドラマをしぼって描いてくれたら、正直辛亥革命のことに大して感心のない日本人にももう少し面白く観ることが出来たのではないか、とどうでもいいような想像をめぐらしたりもした。

と、ジャッキー映画としてはあまり喜べない内容ではあるが、辛亥革命やら孫文やらについての映画としてはなかなか堂々たる出来栄えではあって、派手な戦闘シーンやロケーションの壮大さ、セット美術の素晴らしさなど、それらがドラマをきちんと支える見事さで感心するというか圧倒されるものがあり、決して退屈な映画ではなかった。ネット上での評判はよろしいとは言い難く、見るのも不安になる感じだったがそこまで酷くはなかった。やはり自分の目で見ないことには何事も判断は出来ない。

しかしウィンストン・チャオの孫文の貫録ぶりは美しいほどでしたな。きれいに刈り揃えた襟足が美しくて、やはり清廉潔白な人間を表現するにはああいう髪型でなくてはならんなと。ジャッキーもいつもの軽妙さは封印して苦悩する指揮官を演じており、こちらも貫録の芝居で良かった。ガンアクションも似合うことに気付いたよ。アクションはもう引退するらしいが、それならジャッキーのフィルムノワールが見たい。一瞬、ジャン=ポール・ベルモンド的な空気をはらむ感じがあってゾクゾクした。「演技者ジャッキー・チェン」で魅せる映画を次は期待したい。