眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

12月29日(木)の日記

今更ながら『下女』のDVDを買った。一週間ちょい前に楽天で注文したのだが、注文後にお店は韓国にあると知って不安になり、しかも受付時も発送時もメールが来ず、これはちゃんと届くのかと不信感を抱いていたが、無事にやってまいりました。疑って悪かった。

『下女』は、今年、衝撃を与えてくれた映画として記憶に留めたい一本なので、手に入ってとてもうれしい。シネヌーヴォで見たプリントはお世辞にもきれいと言える状態のものではなかったのから(というかフィルム上映ではなかったが)、復元版というDVDにはちょっと期待している。年末はこれを観て過ごしたいところだが、まだまだ他にも観るべきDVDは大量にある。何から手をつければいいの




さて、私もちんまりと、今年観た映画の年間ベストテンなどを発表したいと思います。因みに今年は現時点で(まだあと2日あるからまだ変わる可能性はあるものの)鑑賞本数は57本。いやー如何にも少ないですな。少ないですが、これでも例年に比べれば多い方だ。ここしばらくずっと50本を越えることはなかったから。2012年はもうちょっと観たいところ。って去年も同じこと言ってたな…というか毎年言ってるな。

1位『MAD探偵 7人の容疑者』  これはもうダントツ。凄く変な映画を観た、という興奮。七重人格を画面上に出すその物凄く直接的な表現に痺れ倒した。フィルムノワールとしての雰囲気と、切ない恋愛映画の柔らかさを同居させるのも圧巻。

2位『ブラック・スワン』  相反する感情や状況の中で、徐々に変質していく肉体!と、映画の一断面をそう断言するのなら、楳図かずお至上主義者としては、この題材に興奮しないはずがない。美と醜、若さと老い、などに執拗にこだわった楳図作品の興奮がこんな形で再現されるとは…。楳図先生は大晦日の『笑ってはいけない空港』に出ているそうなのでそっちはそっちで爆笑を期待。

3位『ヒアアフター』  死に直面した3人の人間のそれぞれのドラマ。スピリチュアルなテーマを怪しげな方向には進ませず、真摯な人間ドラマとして描く所が素晴らしかった。浮世離れした感覚が人を幸福にすることもある。が、それをファンタジーの勝利、みたいな安い展開に堕さないところが良かったな。

4位『ゴーストライター』  ロマン・ポランスキーの新作。地味ながらもお客さんも入ったようでそれも喜ばしい。映画の面白さとは、お話の面白さだけではない、という当たり前のことを、改めて教えてくれた。話だけを追うと、ツキイチゴローの稲垣吾郎のように、火サス並、という発言を平気ですることになる。

5位『フェア・ゲーム』  あまりにも過小評価されているのではないかと思う。己の仕事をこなしているのに上からまさかの裏切り。身元は完全に割れて世間からは凄まじい非難を浴びる中でそれを乗り越え戦う夫婦に痺れる。ショーン・ペンの知的でありつつも多少傲慢な夫の姿が生々しい実在感にあふれて素晴らしかった。また、ナオミ・ワッツの父役をサム・シェパードが演じており、折れかけた娘の姿に、「おまえは正しい、お前はお前の信じる道を行け』(みたいなこと)を言うシーンに落涙。サムが、正しい資質について語るんだよ。そりゃ泣くよ。

6位『歓待』  これも変な映画。変だけど、見事に時代を撃つ内容。そこに笑いを散りばめて、得体のしれないパワフルさで見せきる技量。一種、祝祭的な空間として盛り上がるクライマックス!そして潔い引き際。アンダーグラウンドで走り続ける首謀者の小気味のよさが心地よい。

7位『引き裂かれた女』  シャブロル、今年は盛り上がりましたね。一部でだけど。これも内容としては何と言うこともない。そういう意味では『ゴーストライター』と同じ。が、三流ゴシップみたいな下世話な話をこうまで流麗に語れるものかとびっくりした。ブノワ・マジメルのバカっぽさもとても良かったです。

8位『スーパー!』  これも変な映画だった。嫁を寝とられたボンクラ亭主が、自作のスーツでクリムゾンボルトと名乗って悪人を成敗する。あまりにストレートな鉄拳制裁の描写は異様にバイオレントで彼の異常さをえぐり、ヒーロー映画の体裁で、キ○ガイ対人でなしの悪人、という引きまくりの戦いを描きだす。こういう映画は大好きです。ラストシーンにも泣けた。

9位『アクシデント』  完璧であることを徹底しようとする人間は異常である。それが己一人の問題であったり、周囲もそれを了解しているのなら何も問題はないが、そこからはみだしたとき、その行為の異常さはどこまでエスカレートしていくのか。幸福な結末はありえない。絶望が暗い口を開けて待っている。終映後、思わず映画館の従業員に「やるせなさすぎませんか」と声をかけてしまったほどだ。

10位『復讐捜査線』  娘を殺された男の復讐劇。骨太な、しかも極太な体当たりがずしんと体に響くような男らしい映画であったな。レイ・ウィンストンの独特の雰囲気がさらに映画を豊かなものにしていたのも良かった。こういう男のための映画が過小評価されるのは愉快ではない。現に横で見ていた若いカップルは終わったあとに何の感慨もなさげに笑いながら出て行った。許さぬ(大きなお世話だよ)!

という感じなのですが、正直4位くらいまでは差があるが、以下はみな同点、同率ですな。図抜けた映画以外、面白い映画に差なんてあるはずもないじゃないですか。これ以外にも印象に残る映画は沢山ありました。『海炭市叙景』『ドリームホーム』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』『塔の上のラプンツェル』『孫文の義士団』『マイ・バック・ページ』『コクリコ坂から』『ムカデ人間』『この愛のために撃て』『シャンハイ』『アジョシ』『猿の惑星ジェネシス』『密告・者』『ミッション:8ミニッツ』『コンテイジョン』『クリスマスのその夜に』…などなど。どれも好きな映画。大事にして、機会があれば何度でも観たい映画ばかり。こうしてみると、今年もいい映画があったんだなと実感出来ますな。

因みにワースト映画だが…。ま、色々あるんだけども、一本挙げるとするなら、『プリンセストヨトミ』かな。何をしたいのかがさっぱりわからない。どんな映画なのか、一言で説明出来ないもんな。説明しようとすると妙にだらだらと、どこまで話せばいいんだ?てな感じになってしまう。設定自体は面白いのに、全然娯楽映画として転がらないのはもはや罪と呼んで差し支えなし。『鹿男あをによし』は凄く好きなドラマだったので、ああいった荒唐無稽さを期待したこちらが悪いのか。一番がっかりしたのはこの映画だったなあ。