眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「フラメンコ・フラメンコ」 感想

取り立ててフラメンコが好き、というわけではないのだけれども、カルロス・サウラの『カルメン』を観たときは結構ショックを受けたもので、メタフィクションのような入れ子構造の映画の作り方が面白かったのは勿論、フラメンコがこんなに情熱的でカッコいいものだということをそこで知ったようなものだ。なのでテレビでやってると、つい見入ってしまったりするのだが、まあその程度の人間なんですが、ヴィットリオ・ストラーロと組んでカルロス・サウラが撮った、となるとやはり興味があるもので、いそいそと出かけて観てしまう。そして感動してしまう。

誕生から死、そして再生をテーマとして描いているという。それを何も知らずに観る人間がどこまで理解出来るかは別にしても、とにかく撮影が素晴らしい。月、太陽、虹。赤、青、黒、といった色使い。ドラマティックなまでの鮮やかな世界の構築。言ってしまえば、それは平面的な舞台であるにも関わらず、もう一つの人生をそこに現出させることに他ならない。加えて、冒頭から何枚もの絵が登場し、それが出演者と同じ扱いで大きく並べられる。フラメンコの歴史として、また今も息づくものとして。カメラはその間を行ったり来たりを繰り返し、踊るものはその間に姿を見せる。さらに場面が変わるごとに、闇の暗さが描かれ、雨が降る。鏡を配置して、人間と絵と鏡の境界が曖昧になっていく。『カルメン』や『タンゴ』で現実と虚構が渾然一体となっていく空間を作ったサウラは、今回は全てを一つにし、全てを伝説と化すという恐ろしいほどの情熱で持ってフラメンコと対峙する。感動した。


まあ改めてこの予告編を見るだけでも震えが来るが…。個々の演者で言えば、イスラエル・ガルバンが衝撃的だったなあ。『静寂』と題された前衛的な踊りが素晴らしかった。全身が芸術みたいだ。狂気をはらんだような感じも凄かった。