眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

9月2日(日)の日記


THE GREY 凍える太陽』 於:アポロシネマ8

監督はジョー・カーナハン。2012年のアメリカ映画。

『エッセンシャル・キリング』とか『ザ・ロード』のような一見娯楽冒険映画風でありながらその実、非常に内省的な映画群がある。この作品もリーアム・ニーソン対狼軍団!という娯楽映画としてはこれ以上ないくらいのインパクトを持ちながら、映画の核心はそこからは微妙にずれた所に着地していたが、そういうものだと思って観る分にはなるほどと納得して観ることが充分に可能な映画でもあった。

グレイ、ということは灰色ということで、当然狼の体毛の色であり、激しい吹雪で見とおす事も難しい極寒の地の風景であり、生と死の間で懊悩する人々の心の様でもあり…。主人公を演ずるはリーアム・ニーソンで、死の願望に取りつかれた男として登場するが、目前に死が迫った瞬間にはとっさにそれを回避しようとするのが人間の本能として描かれる飛行機墜落シーン。そのあとも彼は、ここで救助を待つよりも移動した方がいいと主張し生への執着を見せるのだが、亡き妻の思い出が死の世界へ誘うように…というよりも、生きる意味を見失わせようとするかのように現れる…。ドラマは生存者それぞれのキャラクターも描き分け、冒険場面もきちんと見せ場として見せる工夫もされており(特に崖から木へのジャンプ、そのあとの綱渡り)、サバイバル映画としての面白さを備えているとはいえ、それ以上のトーンでのしかかる、死へ接近することへの恐怖、挫折…。でありながら、しかし後半の仲間たちの死の描写には、どこか詩的な美しささえ感じさせる。「妹のことを思い出し凍死していくもの、幼かった娘との思い出の中に死んでいくもの、雄大な風景の中に埋没するかのように死を選ぶもの…。冷たい水の中で溺れて行くものにさえ、川の中に沈んで流れに揺られている姿には、」悲劇性ゆえに絶望的な美を見てしまう。それを甘美なものだとは言わないが、そこに一種のロマンを感じさせる。あるいは優しさか。死へと旅立つものへの手向けなのかもしれない。そんな調子で進んで行く映画を面白い、とはとても言えないのだが、やはり心のそこかしかこにじわじわと沁み入るのは間違いが無く、リーアム共々、観客も絶望の淵に立たされて行くのがこの映画の眼目たる部分であろうと。神の存在とか、運命とか、宗教的な話としてまとめることも可能であろうがそこまでの突き詰め方はされておらず、むしろ一人の男の決断というところに落としこまれる結末にはグッとくるものがある。

印象的な場面は、飛行機墜落の直前、機内の空気が冷えて息が白く吐き出されているところ。白い息は、姿が見えない狼たちが吐き出す息もそういう描写がなされており、生命感の卓抜な描写として素晴らしいが、そこには魂そのもの、といった意味合いも含まれているようにも感じられて、どこかスピリチュアル的というか、超現実的な感覚の描写に見え、それは向こう側にはジャック・ロンドンの世界が垣間見えるせいではないかと思ったりもして。