眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

9月9日(日)の日記


神弓』 於:シネマート心斎橋

監督・脚本はキム・ハンミン。2011年の韓国映画

韓国では2011年の興行収入第1位の大ヒット映画という触れ込み。年間1位の映画とはつまりその国の国民映画ということで、他国の人間にはその面白さが理解しにくいところがあったりするものだ、というのがこれまでの経験上で得た感覚なのだが、この作品も、実は中盤辺りまで、正直辛いものがあったことをとりあえず記しておこう。

冒頭、逆賊とされて殺されてしまう一族の姿を見ながら逃走するまだ若い兄と幼い妹の描写がなされるが、ビデオ上映の弊害か、妙に残像が残るような暗闇の中を走る足元のアップにいきなり気分が萎え、そのあともNHKなどでも放送されている韓国時代劇のような場面が続く。主人公ナミの現状に対する完全にあきらめた態度、その屈折、苦渋をパク・ヘイルは、憤りをじわりと滲ませた演技で彼のドラマとしては奥行きを感じさせるのが、映画としては見どころ。が、何かにつけてやる気を見せない彼の態度に、育ててくれた恩人や妹でさえも、皆あきれている、というのはドラマのひとつの常道であるけれど、大義のためなら死んでも良い、くらいに思っているらしい周囲の描写には少々嫌悪感を抱いてしまう上、清の襲撃が始まる中盤、川を渡る渡らないのくだりでの民衆蜂起的な、人々が一斉に戦い始める場面などは、どうしても国家間の対立になるので、国威高揚とか発揚とかと言った感じが濃厚に漂い、げんなりしてしまった。

なるほどそういう映画なのか、と半ば諦めたのだが(大ヒットしたのも国威発揚的な意味合いが強い映画だからかと)、この映画の面白さはこの後にあった。弓の使い手であるヘイルは連れ去られた妹を救うために単身、同じく強力な弓を使う精鋭部隊と一騎打ち、ゲリラのように身を隠してちょっとした隙間から狙いをつけ、一発必中の矢をブッ射していく。仲間を打ち取られた部隊長を怒りに燃え、必死の追撃を開始、追いつ追われつのデッドヒートな戦いが延々続く。面白いのは弓の本数には限りがあるため、ヘイルも部隊も使った弓を回収しなければならないこと。ヘイルは使いきれば、物陰で木を、竹を削って、矢を作る。一種の頭脳戦でもあるわけで、状況に応じた適材適所な弓の作り方なのも唸るポイント。弓対弓なんて、娯楽アクション映画で成立するのか?見せきることが出来るのか?という杞憂なんて全く寄せ付けない圧倒的なスピード感と迫力が素晴らしい。また敵の部隊長を演じるリュ・スンリョンのドスの効きまくった鋭い眼光、倒れて行く仲間たちへの親愛の情、最後まで決して追撃の手を弛めないプロフェッショナルとしての誇りなど、漢の鏡のような描写満載で凄い。

山林をかけずり回っての戦いが、クライマックスではスカっと抜けた平原に飛び出していくのも映像の変化の着け方として秀逸で、ヘイル、妹のムン・チェウォン、そしてスンリョンを交互に撮らえるロングショットのスケールと迫力、あまりにも映画的過ぎるショットには鳥肌が立った。追撃戦という構成一本に絞り込まれた結果、ここに至る頃には、国家の威信や大国の横暴やそれに対する国威発揚などという部分はもはや関係がない。命を賭けた人間たちのやりとりだけがある。だからこその面白さ、だからこその昨年の興行成績1位なのだろう。また韓国映画版『アポカリプト』だと言われているが、確かにそのシンプルに尽きる一点突破型の内容は似ているが、だからといって物真似では勿論ない。娯楽映画として立派に成立した、独自の面白さをもった出来栄え。アクション映画としてはここ随一の内容だと断然、おすすめしたい。