眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

強奪のトライアングル 感想

監督はツイ・ハークリンゴ・ラムジョニー・トー。2007年の香港映画。

新宿武蔵野館で8月11日から始まった『ニュー香港ノワール・フェス』が、2か月経って、ようやく大阪・梅田ガーデンシネマに。大変喜ばしい。各作品、一日一回の上映というのは非常にきついスケジュールでながら、観られないより全然マシ、レイトショーのみになる前に観たいと思い(夜に出かけるのが苦手で。寝るのが遅くなるのが嫌)、初日に行ってきました。

香港映画界を代表する映画監督がリレー式に、30分撮ったら次の人にバトンを渡す、といういわばお遊びみたいな企画で、常識的に考えれば、それで緊密なサスペンス映画になどなりえないことは容易に推察されるものの、香港映画好きにはやはりお遊びのひとつとして余裕をもって構えることで、楽しく観ることの出来る一編。ネタをふるだけふる頭の部分はツイ・ハークの担当だそうで、ここはもうどん詰まりな人生からの逆転をかけた男たちの一発勝負的な犯罪ドラマとして手堅いものの、次のリンゴ・ラムのパートではサイモン・ヤムとその妻ケリー・リンのドラマが異様にクロースアップされる。時空を超えて、さらに失った妻との思い出も重なって、切なくわびしく悲しい幻想的な雰囲気。リンゴとしては「ケリーは記憶を失っているだけで、サイモンの前妻というのが自分のこととは判らず、自分と顔のよく似た他人と思いこんでいる悲劇」というネタを振っているつもりなんじゃないかなあ、と思いながら観ていたのだが、その次のジョニー・トーはそういうところは全然拾ってはくれず、如何にもジョニーさんらしい風味満点なクライマックスでもてなし。終盤になってまた別の映画になってしまうのが可笑しくて、得体のしれない連中のいる得体のしれない場所に引き込まれてしまう、『悪魔のいけにえ』テイストを配合した感じ、いやむしろ、茂みに囲まれた沼地(?)に建っている食堂の風情など、ツイ・ハークの初期作品のような怪しさを感じさせる。ああいうところで人が簡単に殺されて死体はワニが食ってるんじゃないか、というような。クスリでいかれているラム・シューの怪演も楽しく、巻き込まれてしまう警察官とのやりとり、特にその別れの場面の妙にさわやかなことよ。『エグザイル』のリッチー・レン的な感じもあるなと思ったり。いちげんのお客さんには確かに不親切な映画ではあるものの、歪な仕上がりはかつての香港映画の持っていた猥雑さを思い出させる。でたらめさが濃厚に漂う感じは、憎めないし嫌いにはなれない。愉しいですな、こういうのは。