眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

鍵泥棒のメソッド

なんばパークスシネマにて観賞。

内田けんじの映画は、思っていたことが全く逆に反転する瞬間の、ああそうだったか…という高揚感が映画のクライマックス、というか最高の見せ場に相当すると思うのだが、それまでの現実と反転後の世界とを見事に対比させて二重構造のドラマを構築、現実の境目の脆さとしたたかさを感じさせて、結果としてどちらに対しても平等な視線が注がれる。憐みも羨みもなく、フラットに人生を見つめているように思える。

前作もそうだったけれども今回はより犯罪映画的な味わいが強く感じられる。犯罪映画が持つ安っぽさは万人に判るシチュエーションであるが、それゆえに内田けんじの、娯楽映画における、演出力の確かさを感じさせるものになっている。香川照之がそっけなく標的を始末するシーンの冷ややかさ、また彼が記憶を取り戻す場面の後ろから仰角でぐうっと迫っていくカットの静かな迫力など、もっとハードな犯罪映画としての可能性を感じさせた。フラットな視線は客観性ということでもあるので、内田けんじが本気で犯罪映画を撮れば、さぞや冷徹さに凄味のあるものが出来るのではという予感を覚えさせる。そういう期待をしていきたい。あなたは多分、そっちの方の人間ではないですか?と訊けるものなら訊いてみたい。