眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『キングを探せ』(法月綸太郎)をよむ

法月綸太郎のミステリを読んでいて思うのは、入れ替わり、というのが多いよな?ということ。もちろん、だからといって単純に事件の真相が見えるものではないが、読んでいると、このパターンをちょくちょく目にするように思う。

冒頭は倒叙もの。カラオケボックスに集まった4人がくじびきでトランプを引いて、誰を殺すか、何番目にやるか、を決めるという物騒な始まり方。サスペンス濃度が高い始まりなのだが、四重交換殺人はそうそううまくいかず、次第に不協和音を響かせていく。と、そこでいつものように探偵役である綸太郎と法月警視による事件の推理を描くことになるので、ストレートな犯罪ミステリという具合にいかず、わたしは冒頭の犯人たちの描写はいらなかったのではないか、あれがあるせいで予想外のサスペンスにならないのは失敗ではないのかと思って読んでいたのだが…。いやはやそんなやわな作家ではなかったと改めて思うのであった。

事件の真相…というかここで使われているネタは正直言って、陳腐といってもいいのではないかと思う。えっ、そんなことなのか?と、ネタそのものには実は面白味なんてほとんどない。が、それをミステリの核に据えて、論理と推論を重ねていくことでやがてそれが見えてくるところに面白さがある。見せ方が変わると陳腐なネタも味わいのある謎へと変貌するのが凄い。法月綸太郎はそれが出来る作家ということ。想像を超えるどんでん返し、というタイプの作品ではないので、インパクトには欠けるものの、巧妙にはられた伏線と推理の積み重ねという、本格ミステリとしてのありようとしては実に正しい作品になっていた。さすがだ。過去の作品もちゃんと読み返したい。

キングを探せ (特別書き下ろし)

キングを探せ (特別書き下ろし)