眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『映画宣伝ミラクルワールド』(斉藤守彦/洋泉社)をよむ

サブタイトルは「東和・ヘラルド・松竹富士 独立系配給会社黄金時代」。冒頭には「あの夏、『メガフォース』を観て、怒りと失望のあまり、映画館の看板を蹴飛ばして帰った、かつての少年たちに、本書を捧ぐ……。」とある。『メガフォース』は中学一年生の夏だった。まさにわたしたちの世代にむけて書かれた本ということで無視出来るものではない。

1976年12月18日、『キングコング』と『カサンドラ・クロス』が激突するところから始まり、91年8月の『ターミネーター2』まで、独立系配給会社がどういう方法で観客動員を図ったのか、という戦いの記録。特に、東宝東和の、今からすれば信じられないなりふり構わぬ宣伝の様子が面白い。『サスぺリア』『死亡遊戯』『ナイル殺人事件』…当時の映画興行の、シーズンごとの盛り上がりを思い出しながら読むことになるが、あらためて、懐かしいねえ、というしかない。これらの映画は今のわたしの中では今も現役なので作品自体を懐かしいとは特に思わないのだが、小学3、4年生頃からの、学校や家の様子、友達の顔、何よりも活気あふれる映画館の風景が思い出される。わたしは大阪なので、『キングコング』は梅田地下劇場で、『カサンドラ・クロス』は北野劇場でみたこと、しかも当時改装中だったような気がするがどうだったのか。

前半は黄金時代ゆえに痛快なまでの話が続くが、後半は著者が映画興行界で働いていたからこその、一言言いたい、という面が出てくる。ヘラルドが黒澤明の『乱』に出資したときの古川社長の言葉にはグッとくるものがあるが、こういうことが必要なのだとする、現在の配給会社に対する、著者の一種の怒りが込められている。

76年から始まるので、それ以前のヘラルドの『エマニエル夫人』や『悪魔のいけにえ』などがどういう経緯で公開されたのかとか、また80年代中盤から台頭するミニシアター興行についても語られていない(『エマニエ夫人』については少しある)のは物足りない。まあ本の趣旨とは違うのでしょうがないけれど。

ちなみに、ムックだったころの映画秘宝の『映画懐かし地獄70's』には、東和の松田氏、竹内氏、ジョイパックフィルムの古渡氏へのインタビューが掲載されており、あわせて読むと面白さ倍増。