『恐怖のまわり道』をみる
実に奇特な方がいて、日本語字幕付きで、全編ちゃんとみることができる。
監督はエドガー・G・ウルマー。1945年のアメリカ映画、たったの68分。文字どおりのB級映画だと思われるが、運命の女によって人生を翻弄され、あげくに破滅する男たちのフィルムノワールの典型のような映画でありながら、中盤より登場するアン・サヴェージの強烈なキャラクターによって、一筋縄ではいかない異様な迫力がみなぎる。彼女が演じるベラは、アメリカ映画史上に残るキャラクターではないのだろうか。史上最悪のツンデレかもしれない。トム・ニールとの掛け合いは変種のスクリューボールコメディやバディムービーのようにも見えてくる。
モノローグと、最小限のセットとロケーション、白熱する台詞の応酬でドラマを描ききる潔さが痛快であるが、何よりも、信じられない不運が重なっていく悲劇がもはや喜劇に近いというお話の組み立てが、本当に酷くて素晴らしい。想像外に広がっていく展開の妙味。普通の犯罪映画なら、主人公がどん底まで落ちても、半ば受け入れる心理的体制が取れるのだが、こういう転落の仕方だと本当に茫然とするというか、滑稽味がある分その度合いはより深い。
B級映画の傑作とかカルトとか言われるとひるんでしまうが、映画そのものはシンプルなものだ。このジャンルが好きな人間が、ひっそりと、気楽に愉しむのに相応しい。