眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「ザ・コール 緊急通報指令室」 感想


家に何者かが侵入しようとしている、という通報を受けた911オペレーターのジョーダン(ハル・ベリー)。突然切れた電話にリダイヤルしたため、侵入者に居所を知られた通報者の少女は誘拐され、その後死体で発見される。半年後、新人の指導官に担当を変えていたジョーダンの前で、またしても少女ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)からの「誘拐された」という通報が。少女の使っているプリペイドの携帯電話はGPSの特定が出来ず、追跡が出来ない。担当のオペレーターは動揺し、ジョーダンに助けを求める。ジョーダンは再び、逃げ出した場所へ戻る決意を固める。

冒頭の、ジョーダンの失態で少女が襲われるところは、演出のタッチはホラーめいている。その後、本題であるケイシー誘拐と追跡では、アクション映画のテンポとリズムになる。総体的にはサスペンス映画という括りに入るだろうが、演出は、場面や状況に応じて盛り上げるためにどんどん変容していく。観客を飽きさせない、全方位形の作り方の見本のようでもあった。ブラッド・アンダーソンは、地味なホラーやサスペンス系統の映画を撮ることが多いけれど、むしろハリウッド的なエンターテインメントの方が意外と向いているのではないか、という気がした。

以下、ネタばれ前提での感想を書いています。

まるで停滞することのない前半は、さあどうなるのかということの連続。オペレーターは席についているだけで、他に手出しは何も出来ない。ケイシーの言葉から、次に何をすればいいのか、即座に判断し、指示を出さなければならない。まして以前に、少女を一人死なせている。今度は絶対に死なせるわけにはいかない。最初はおろおろとしながらも共に闘うことを決めて腹をくくる姿は、演じるのがハル・ベリーだと、さすがにさまになる。映画自体はサスペンスに富んでいても、芝居の上では比較的地味な要素(役柄上、受けの芝居になってしまうし、第一、動けない)が多いため、ここに華のあるスター級の俳優がいなければ、本当に地味な映画になってしまう。地味になっても、個人的にはかまわないが、営業的には売りにくかろうし、となると興行的にも厳しかろう。また、後に重要になる「白人で金髪」というキーワードから、出来る限り離れた人物にもしたかったろうから、その点でもハル・ベリーの起用は正解だった(が、ちょっと芝居が大袈裟になるところがあるよね)。

トランクに閉じ込められたケイシーが、なんとか脱出を図ろうとするところが、サスペンスとしては一番盛り上がる。テールライトを蹴って、そこから手を外に出して振り、次はトランク内にあったペンキを流し…その間にも警察車両とヘリによる追跡があり、ここらは、緊迫感あふれる芝居と巧みな編集で(ジョン・デブニーの音楽も盛り上げる!)非常にサスペンスフル。コールセンターのオペレーター、トランク内の少女、運転している犯人、追いかける警察。俳優たちは、全く顔を合わせていない。これでサスペンスを構築していくのだから、凄いものだ。そして映画の面白さは、そういうところにあるな、と改めて思ったりもする。

犯人と会話したジョーダンは、その声が、冒頭の少女誘拐で聞いたものと同じだと気付きショックを受ける。結局、警察は犯人に追いつけず、追跡は中止。逃亡先の犯人の実家には誰もいないと判ると、警察がさっさと撤収してしまうのは、びっくりする。少しは人を残して、もうちょっと調べるだろう。ジョーダンは、録音を何度も聞き返すうちに、最後の部分に、金属音のようなものが聞こえていることに気付くのだが、それが何かは判らない。こういうことは警察に知らせた方が良いと思うのだが…。そこから展開が変わるのが面白い。座りっぱなしだったジョーダンが、自分で動き出す。犯人の実家へ向かうジョーダン。そこで彼女がみつける写真、録音に残っていた金属音の正体、落ちている壊れた携帯電話…といったアイテムの見せ方は、大変段取りがよろしく、判り易い。余計な想像は、働かせる必要がない。ただ、そこで思うのは、彼女に探偵的な役割を担わせるために、警察はこの実家を捜査しないし、警官を一人も残さなかったのだということ。映画を面白くするための手段だが、嘘が強すぎると冷めてしまう観客もいるので、匙加減はギリギリだ。

終盤で明らかになるのは、犯人のフォスター(マイケル・エクランド)は重度のシスコンであり、何よりも金髪に執着するサイコパスだった、ということ。亡き姉への思いが強すぎて、似たような金髪少女を誘拐し、頭皮ごと金髪を奪っていたのだった。しかも冷蔵庫の中には、髪の毛がいくつもあった。これまでにも何人もの少女が、おぞましい執着のために、犠牲になっていたのだ…。ここで映画は、再びホラー色を強める。髪に顔をうずめて、その匂いをかぐ…といった描写もやり過ぎで、如何にも変態ぽ過ぎる。ケイシーがとらわれている手術室のような部屋や地下の廊下など、拷問・監禁系ホラーに似た画作りになっているのも、そう思う理由だろう。まして、単身乗り込んできたジョーダン(そんな必要ないのに!)とフォスターが戦う、となれば、なおのこと。私的制裁によって幕を閉じるのも、ホラー映画の締め方という感じ。そこは好みが分かれるところかも。しかしながら、ノンストップな展開と緩まぬ緊張感の持続は素晴らしく、退屈無用な映画だった。シンプルでストレートな作りの娯楽映画は、先日の「ヴィジット」もそうだったが、みていて本当に愉しい。

フォスターの家での、警察と妻とのやりとりには、やりきれないものが残る。短い場面ながら、夫を信じたいのに、それが出来なくなる瞬間の、妻の崩れようが悲しく描かれている。何も判らないでいる子どもたちの姿も哀れ。

監督 ブラッド・アンダーソン/THE CALL/アメリカ/2013/イマジカBS