眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「スクワーム」 感想

脚本・監督 ジェフ・リーバーマン/SQUIRM/アメリカ/1976

〈あらすじ〉海辺の田舎町にやってきたミック(ドン・スカーディノ)。骨董品の買い付けという名目がありつつも実際は、友達以上恋人未満なジェリー(パトリシア・ピアシー)に会うのが本当の目的だ。立ち寄った店で注文した飲み物にゴカイが入っていたことに始まり、ミックとジェリーは、小さな町を襲うゴカイの大量発生と凶暴化という恐怖に巻き込まれていく。

ジェリーの隣家はゴカイの養殖をやっていて、そこの息子がロジャー(R・A・ダウ)。彼はジェリーが好きなのだが、まったく相手にされていない。ジェリーが、町まで行くのにトラックを貸してくれという場面。猫なで声でロジャーに接するジェリー。自分のことが好きだと判っているからこその、いやらしいやり方である。ジェリーには、アルマ(フラン・ヒギンズ)という妹がいるのだが、家にやってきたロジャーに彼女が言う「いいシャツね。軍隊から盗んだの?」という嫌味。驚くのはロジャーがそれに対して「ニキビは治ったのか?」と返すところ。これにアルマは一瞬つまるのである。単に鈍いだけの男ではない。するとアルマは、ミックが来たら姉さんと一緒に寝るの?とわざと母に聞いて、逆襲。注目したいのは、そのあと、家を出ていくとき、気まずそうな、しかし平静を装おうとするロジャーの顔…。ここ、結構胸に迫るものがある。こういう、立場を失うような経験をしたことがある人はいるだろうし、好きな人に相手にされていないのに、ちょっとしたことで浮かれてしまうこともよくあること。気持ちよく登っていったら梯子おろされた感じのロジャーに同情してしまう。彼はこの映画の悪役なので好かれる立場の人ではないが、モテない男としてのロジャーへの共感を口にする人がいないのは不思議に思える。まあ、あの下卑た笑顔は、そんなナイーブな部分を消し去る邪悪さがあるけれども。

ミックとジェリーが、一緒に釣りに行こうとロジャーを誘う場面。「釣り道具は買おう」というロジャーに、「新品のがあるんだ」と、相手にしないミックがそっけなさすぎる…というか冷たすぎる。愛想笑いのひとつもない。一瞬固まるロジャーだが、そりゃそうもなるだろう、と思う。ただでさえライバルなのに、そんな粗末な扱いをされたのでは怒りの感情もただ事ではなかろう。ただそれは、稚拙な感情と行動しか取れない男の不幸でもある。だが、なぜそうなったのか。おそらく父親から虐待を受け、幼いころにその父親のせいで親指を無くし、ろくな教育も受けられず、やりたくもないゴカイの養殖を手伝わされ、惚れた女には相手にされず…。彼のジェリーに対する下品な接し方は、よい教育や経験を積み重ねることが出来なかったからではないかと想像してしまう。ロジャーは、不幸を感じさせ過ぎる。そして彼の末路の悲惨さは、映画史上でもベストを争うくらいのものだ。単純な悪役と言ってしまうには、あまりにも不幸な男なのである。だからこそ、これほどまでに印象的なのだということも出来る…。

映画自体は、世にも有名なロジャーの顔にゴカイが食いつく見せ場まで45分を要する作り方になっていて、それまでに大して見せ場がない。これをつなぐのはなかなか至難の業だと思うのだが、主人公があっちへ行ったりこっちへ行ったり、行動するパートナーを変えたりしながら展開させていくので、目先の変化があって、意外と持たせる。憎まれ役の女好きの保安官だとか、ミックたちが訪れる飲み屋のマスターが骨董品を売りつけようとする姿とか、傍役もいい感じに描かれている。しかも白骨死体をめぐる部分は、物語を後半へ導いていく役割をきちんと担い、果たしていて、かなりまっとう。ゴカイがうようよ出てくるだけの映画では、さすがにしんどいだろうが、脚本・監督のジェフ・リーバーマンは健闘している。といっても、実は原作があって(邦訳も出ていた。古本屋でも以前はたまにみかけたものだが…。買っておけばよかったなあ)、展開のさせ方に関しては、小説の通りなのかもしれないが。それでも全編を覆う不穏な気配、クライマックスの一軒家内の暗闇など、ホラー映画としての雰囲気は百点満点みたいなもの。絶対に悪くは言いたくない映画である。

↓予告編。本当に気持ち悪いので嫌いな人は絶対に見ないでください!

それにしても70年代映画には、70年代映画でしか出せない、味わえない魅力がある。特にこの結末だ。人は自然の猛威の前に何も出来ない、というのがよい。それが去るのを待つしかないという無力さ。今の映画だと何かしらの作戦で撃退してしまいそうだし、余計な話を付けたしたりしそうだけど、このころの動物パニックものには、どうしようもない、というあきらめた結末が多かった。そんな虚無的な描写が、観客サービスを過剰にしていった80年代以降の映画とは違う、独特のものであったことを、2016年から眺め直して、しみじみと思うのである。

ブルーレイ発売は来年2月。それまで待てない、今すぐみたい、という人には、DVDがまだ発売中。このDVDは画質が結構いいのだが、ブルーレイはこれ以上にきれいになるのかと思うと、ぞっとして参りますね。