眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

コーマン帝国 感想

ロジャー・コーマンという映画人についてのドキュメンタリー。

ロジャーが、結果として育てたことになる多くの映画関係者たちにインタビューしており、なかなか壮観。大御所クラスでは、ジャック・ニコルソンマーティン・スコセッシ、ロン・ハワード。ちょっとなつかしめの名前は、ジョー・ダンテピーター・フォンダデヴィッド・キャラダインなどなど。他、多くの低予算映画製作者(だけではないのだが、一々書くのも面倒なので一つに括った)のみなさん。誰もが、当時を振り返り、ロジャーのけちんぼ製作ぶりにあきれ、当惑していたことを語るのが可笑しい。しかし一方で、そこで学んだことの多さ、大きさについても語っている。

アンチ・ハリウッド的行動の中で、現在のハリウッドを支える映画人を生みだしたことが、ロジャーが今も偉大な人物として扱われる理由だろうが、そんなことと関係なく、大量の映画をひたすらに量産し続けてボンクラな観客を喜ばせ続けた(続けている!)ということの方が重要だろう。「現在の映画人が云々」というのは、所詮ロジャーの映画などみたことのない人間が大半であろうアカデミー協会や、普通の映画ファンの注意を引く部分であって、昔から彼の映画をみている人間にはどうでもいいことである。普通の観客が、インタビューの合間に挿入される過去の映画のクリップをみて、その映画を見たいと思うとは、到底思えない。なので、結局のところ、この映画をみて面白いとか、場合によっては感動とかしてしまう(感極まって言葉を詰まらせるジャック・ニコルソン、離婚して皆が離れていったときに、ただ一人電話してくれたと話すポリー・プラット…涙)のは、限られた人たちのみであろう。そちらの世界の人にとっては必見の作品であった。とりあえず、ここに紹介された作品は、全部みたいと思ってしまう。

「白昼の幻想」では、実際にLSDを試してみたとか、「侵入者」での差別問題への取り組み方とか、映画を作るという作業において、如何にそれに誠実であろうとしたかということも語られている。しかしそれは当たり前のことでもある。ゲテモノやキワモノな映画であっても、(自分はお金を損せず)観客には満足感を与える、という最低限の娯楽は保証するという意味では、商業映画作家として誠実だったのである。お金にも誠実、映画にも誠実、観客にも誠実。ビジネスと割り切ったからこそ、映画に対して誠実であったというのは、思い入れで映画を作ることの危険性をあぶり出すかのようである。

「ひどい人だったよ」(大意)と言いながら皆が笑う。そしてその後、「だけど、本当に凄い人だった」という表情になるところに、ロジャー・コーマンの偉大さが滲み出していた。

監督 アレックス・プレイストン/CORMAN'S WORLD: EXPLOITS OF A HOLLYWOOD REBEL/2011/ムービープラスの無料放送