眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「日本一のホラ吹き男」 感想


〈あらすじ〉東京オリンピック三段跳びの選手候補だったが、怪我のために出場が見送られてしまった、初等(はじめひとし)。たまたま家の近所の工事現場で掘り返された壺から、ご先祖の書き残した書物が出てくる。そこには、ホラを吹いた上でそれを実行して出世したという処世術が書かれており、これを読んで発奮した等は、日本有数の大企業・増益電気に入社しようと試みる!

年の初めは、やっぱりご陽気になコメディがよろしいな。ということで、これまた久々にみた。

とにかく植木等のパワフルさが凄い作品で(といっても他の作品もほとんど同じようなものなのだろうが)、過剰な動きと過剰な演技が痛快この上なし。どんなに無茶なことを言ってもやっても、「まあまあ、わっはっはっ」で済ませてしまう。彼が凄いのは、どんなに過激なことをやっても、必ず成功させて、相手に損をさせないこと。きちんとフォローするのがみていて気持ちいい。この映画だと、増益電気に入社すると決めて、社長の伝記を探しに本屋に行くところがある。調子よく本を見つけて座りこんで読み始める厚かましさ。店主が怒ると、この本を宣伝してやるから、と偉そうに言い放つ。後にちゃんと入社してから、また本屋にやってくると、店主がもう嬉しそうに「おかげさまであれから本が売れて」と言うのだ。「そうだろう、だいぶ宣伝したからな。あ、ゴルフの本ある?」とまるで自分ちであるかのようなくつろぎっぷりに加えて、「腹減ったな、カツ丼でも取ってよ」と何気ない口調で店主に言うと、また店主が、はいはい、と返事がいい。この辺のやりとりの軽快さと厚かましさは、笑ってしまう。こんな人いたら困るなと思うのだが、自分も損せず、相手も損せず、笑って円満に事を進める姿には、理想の人間関係像を見なくもない。こんなふうにやれたら、どんなにいいだろう。という憧れがあって、それがスカッと気持ち良いのである。

増益電気は、一流企業であり労働組合も機能していて、いまどきのブラック企業ではない。が、そこはモーレツ社員、寝る間も惜しんで働きまくる。しかしまた、ここには卑屈さもいじめもない。実際はあるが、初等にはないも同然なのだ。ただただ本人が出世のために頑張るというものなので、こういう労働なら、やってやれないことはなさそう、と思わせるのも恐ろしい。

クレージーからは、桜井センリ安田伸谷啓が出演。出番もあまりない。女優は、毎度おなじみの浜美枝がヒロイン役。とてもスタイルがよくて美しい。衣装も可愛らしくて、見惚れるほどですな。

にやにやしながらみていると、あっという間の93分。こんな映画だけをみて暮らしていきたいものである。

監督 古澤憲吾/東宝/1964/