眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」 感想

〈あらすじ〉世界を守るための闘いが、甚大な被害を引き起こしたことで、アベンジャーズへの風当たりが強くなる。アメリカ政府は、アベンジャーズを国連の管理下に置き、指示が出た時のみに出動が許可されるようにしたいとする方針を発表。何の罪もない若者が、ソコヴィアでの戦闘下(「エイジ・オブ・ウルトロン」)で死んでいることを、その母親から突き付けられていたスタークは、それを受け入れる。が、助けるべき者を助けられないのは間違っている、管理下に置かれるということは、我々の望まない戦いを強いられる可能性もある、超人たちの自由意思にまかせるべきだ、と主張するキャップはそれに首肯せず、対立は深まっていく。

作品としては「キャプテン・アメリカ」の新作であり、シリーズとしては3作目になる。が、様相はまるで「アベンジャーズ」の新作のよう。この調子で行くと、「キャプテン・アメリカ」と「アベンジャーズ」の差が無くなってしまうのでは、とも思うが、それで誰かが困るということもなさそうである。

悩めるヒーローというのは、アメコミの世界だけの話ではなく、日本のアニメや特撮でもおなじみのテーマである。超人であることの恐怖や絶望をどう受け入れるかというのは、繰り返し語られる物語であり、その克服がヒーローをより強くする。同時に弱い者の立場をも理解することによって、精神的にも成長していく。そういう点では、「キャプテン・アメリカ」を主役にした3作目にもかかわらず、スターク社長寄りの内容になっていると思った。キャップは、長い時間を失ったことで急速に大人になることを要求された人物である。親友であるバッキーを守るために尽力するが、彼は操られていたのだから許してやれ、と言い続ける。徹底的に彼を守り抜こうする姿勢にゆらぎはない。だからこそ、その向こう側にいる真の敵の存在を知り、自立して、自分の意思で戦おうとする。対する社長は、父との確執が今も心を苛んでいる。映画の冒頭でも、巨額の費用を投じて、トラウマを消去するマシンを開発したことが描かれている。両親の死は、映画の終盤で大きな意味を持つが、これを克服出来るのか、否か…。社長は父の呪縛を乗り越えられるのか?というところに繋がり、すなわち、大人になれるのか?というヒーロー物語の核心へと結びついていく。真のヒーローとなりうるのか、と。

大人と子どもの対立という点で、判りやすくその差が表れているのは、それぞれのチーム分け。社長側は、ブラックパンサーやヴィジョンやスパイダーマンといった息子テイストの強いキャラクターが、キャップ側にはホークアイアントマンといった子供のいるキャラクターがいる。大人と子どもの設定が生かされているように思える。アントマンが巨大になる予想外の場面も、そう考えると、単なる見せ場ではなく、テーマに沿ったもののように思える。

今回の最大の見せ場は、やはり空港での決戦。2人それぞれの主張によって、アベンジャーズは分裂。真の敵を倒すために戦おうとするキャップたちは、それを阻止しようとする社長たちと空港で激突。オールスターキャストの顔見世興行。双方が並んで走ってくるところは、「仮面ライダー」の劇場版も同じような撮り方になっているけれど、この見せ方しかない、と作り手は思うのだろう。どんなに武器を携え、超能力が使えても、拳と拳をぶつけ合うという肉と骨の激突がイメージするもののインパクトの方が強いのだ、きっと。そしてそれが血沸き肉躍る感覚を呼ぶのだ。

驚いたのは、スパイダーマンをスカウトするくだり。もちろん、これが新しいスパイダーマンシリーズのプロローグに相当するから、ということもあるだろうが、社長自らが、ピーター・パーカーを訪ねて「どうして戦うのか」ということを問う場面があること。想像していたよりも丁寧に、心の内が描かれていた。アントマンのスコット・ラングはあまりにも軽い扱いだが、それがこのキャラクターらしくて笑ってしまった。新しく登場したブラックパンサーもまた華麗なアクションが素晴らしく、バッキーを急襲するアクションもかなりの見せ場になっていた。女性たちでいえば、「エイジ・オブ・ウルトロン」に引き続き、スカーレット・ウィッチが出ているのがうれしい。演じるエリザベス・オルセンが、今回も素敵。ブラック・ウィドウの影が薄い分、こちらが華やかさを担っている感じだったな。しょうがないけど、マリア・ヒルが出ないのは残念。あと、社長の母親をホープ・デイヴィスが、ピーターのおばをマリサ・トメイが演じていたのもうれしい。

空港決戦は、命の取り合いではないので、それほど過激なことにはならないと思われたが、なあなあの闘いでもない。顔見世興行の楽しさを、帳消しにするようなのがウォーマシンの撃墜。加えて、そのあとに続く真の敵との闘いが、観客の想像とは違うところへ向かうのも衝撃。なんだかんだ言ってても、最終的にはより強大な敵の出現で、対立してたのを休戦して一緒に戦うんだろう?などという浅はかな想像は打ち砕かれ、残酷な現実の前でやりきれない戦いが…社長とキャップの本気のどつきあいが、繰り広げられる。安易な展開を拒否して、ひたすらにキャラクターを追い込んでいく作劇に呆然とさせられた。

今回はなんとかあらすじは理解できていると思うのだが、マーベル映画のあちらこちらへと絡んでいるので、もう何が何やらわからなくなっているところもある。でも、それもまた楽しさのひとつでもあろう。ぼんやりとしていて、おいて行かれる楽しさ、というのもあると思うのである。

監督 アンソニー・ルッソ ジョー・ルッソ/Captain America: Civil War/2016/アメリ