眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『名探偵ゴッド・アイ』をみる

監督はジョニー・トー

奪命金』『毒戦』に続き、今年みるジョニー・トー映画の3本目。これが一番面白かった。犯人や被害者の境遇や状況に精神的ダイブをすることで事件を推理する、『MAD探偵』のラウ・チンワンの如き、神がかり的な元刑事をアンディ・ラウ。体は動くが刑事としてはいまいちなサミー・チェンは彼に憧れ、子どもの頃に失踪した親友の行方を捜して欲しいと個人的な依頼をする。映画は、その親友の捜索と、報奨金のための事件捜査と犯人逮捕の2本柱で進行し、アンディの勝手気ままな捜査ぶりにサミーが散々引っ張り回されるという完全にコメディの体裁、しかも、ラブも入って来るからすごい。サミー・チェンが本当に素敵で、細身のスタイルの身のこなしのかっこよさ、くるくると変化する表情の多彩さ、特に嬉しそうにアンディをみつめる場面での愛苦しさなど天下一品。加えて、マカオでラム・シュー相手にバカラをやる場面での、あの柄の悪さも素晴らしく、それでもチャーミングさがちゃんと残るところも良かったなあ。アンディとの息のあった掛け合いはもはやラブコメの王道、笑いを増幅させて楽しくてたまらない。

一方でシリアスな展開にも、決して手を抜いているわけではない。『マッド探偵』同様に、推理をしていく過程はやはり盛り上がる。推理に没入した心の中では、被害者とアンディが会話する形になっており、被害者に謎をかけられるのがサスペンスを呼ぶ。画面上にあふれる失踪した女性たちの場面など、異様な迫力をもたらすが、別の事件の被害者たちの場面には少し笑いがまぶしてあったりして、その辺のバランスもうまい。

また、アンディが失明していることに始まって、みる・みられる、という関係性、そしてそのズレが映画の重要な要素となっているのも見逃せない。ひとめぼれや、目玉そのもの、といったあたりにまで、ぶれることなく描かれているのは素晴らしい。さらに、中盤で、失踪した親友の祖母の話が入って来る。しつこく過剰なギャグめいた撮り方で、突出して異様なシークエンスなのだが、事の真相に至ったとき、この祖母の場面とリンクして、ある行動の凄味を際立たせるのが圧巻。ギャグにしかみえなかったものが、その瞬間に狂気に転化するのも鳥肌が立つ。

でたらめのようでいて巧妙、精緻なようで抜けまくった展開、プラス、なれあい一歩手前のようなラブコメの愉しさ。すごい映画。年間ベストにはこれを加えて、ベスト11にしたい。