眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

相棒13 最終回

いやあ…。衝撃ということでは、確かにかなりの衝撃度ではあるが…。
以下、当然ネタばれしています。
内容に関しては、おそらく賛否両論であろうとは思うのだが、まあそこはどうでもよろしい。カイトくんを如何に退場させるか、ということを念頭に置き、出来れば今までにない形でのそれを考えて行った先が、こういう結末なのだろう。しかし、右京の心中を察するに…。シリーズ始まって以来の絶望感ではあるまいか。

彼が、入院している悦子を訪ねる場面には、もう痛々しささえあった。早朝に、近くにきたからといって見舞いに現れた右京は、差し入れのお菓子を手渡すと、そこで言葉を無くしてしまう。しかも、ぎこちないやりとりのあと、一旦は去ろうとするのだ。その右京の背中に、もしもここで悦子が声をかけなかったら…。カイトは、「杉下さんにも(人としての)甘さがあったら…」的なことを最後に言っていた。これまでを振り返って、右京に犯罪者の行為を見逃すようなことはない、と判ってはいる。だが、あの場面で見せた右京の逡巡には、3年間を共に過ごしてきた相棒に対しての、ゆらぎがあったのではないかと想像させた。カイトを見逃すかどうか、という迷いは、己の、人としての甘さを認めるかどうかの問題である。あまりにも非人間的にも思える右京の正義であっても、決して鉄面皮なものではない、という姿をみせた点で、今回はみる価値があったと思う。

そして、エンドクレジットにのって流れる過去のカイトくんの姿。かつては確かに血の気の多い青年だった。ある意味怒れる若者であった。もしかすると右京は、その頃から、カイトが何か事をしでかすかもしれない、という予感を抱いていたのかもしれない。だからこそ、彼を身近に置いたのかもしれない。そんなふうに思えるラストになっていた。なんともやりきれぬ、寂しい幕切れとなった。
シーズン14、どんな形で右京は復帰するのだろうか。そして新たな相棒は…。秋の放送再開を、みんなが無事に迎えられますように。期待しています。

追記:どうやら大変不評のようで…。なので、他に思ったことを追記。
3シーズンも付き合ってきたカイトくんの言わば凶行ともいうべき行動について、唐突であるという意見も多いようなのだが、勿論これを脚本の不手際ということは出来よう。だが、あえてこう思いたい。現実に起きた事件において、犯人を知る周辺の人たちが一様に言う、「そんな人には思えなかったですね」や「まさかあの人が」や「普通の人ですよ」といった言葉。またそのときの気持ち。そのなんとも信じられない心境を、感じさせたかったのではないか。どうして自分がそのような行動を取ったことを、カイトくん自身もうまく説明出来ないというのも、人の心のあやふやで複雑なものを感じさせる。それは、1話完結の犯人の心情では、うまく伝えきれない。しかしカイトくんというキャラクターを使えば、それが出来る。その衝撃を、強制的にみせられたのだ。

もうひとつ。「相棒」は国家権力に楯つくということを繰り返し描いてきたが、今シーズンにおいてはその風合は極端に薄れてしまったように思える。プロデューサーが降板するという事態がそれに影響を与えているのかもしれないし、その手の話しを書いてきた櫻井武晴が今回は全く参加していないせいかもしれない。いずれにせよ、今シーズンの「相棒」は、かなり意図的にその辺を避けていたような気がするのである。だが、誰もがそれに納得してはいなかった、ということなのではないか。カイトくんの凶行は、言わば国家権力の、ある意味での暴走でもある。これまでにも警察官による犯罪は何度も描かれた。だが、主人公が罪を犯すということの重大さは、その比ではない。衝撃的な最終回という縛りのある脚本を書くにあたり、国家権力の失墜を、カイトくんを使って描く…。そんな目論見もあったのではないかと想像した。つまり「相棒」というドラマ自体に、誰かが楯ついた、ということ。

今回、右京が直面したのは、国家権力の一旦である同僚刑事が罪を犯したということである。これまでは、楯つき批判する対象が外にあった。だが今回は、身内の人間による犯罪である。楯つくも批判するもあったものではない。カイトくんを批判するということは、自分自身を批判することになる。だからこそ右京の絶望は、これまでにないダメージのはずで、事実、最後には「自分に対して愛想がつきたというか…」と力なく言葉にしていたではないか。相棒の行動に、全く気付かず、力にもなれなかった右京。徹底的に外に向かっていた対抗心が、忸怩たる思いとして自分に向かってくることへの動揺がないと、誰に言えようか。

不評の意見が多く、炎上ものの盛り上がりだそうだ。まあ確かにそれも判るけれども…。でもそれよりも、ほのかに垣間見えるものを探し、あれこれと想像をめぐらす方が、わたしは愉しいね。