眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

パシフィック・リム:アップライジング  感想

監督は、スティーヴン・S・デナイト。2018年のアメリカ映画。

出演
ジョン・ボイエガ(ジェイク・ペントコスト)
スコット・イーストウッド(ネイト・ランバート)
ケイリー・スピーニー(アマーラ・ナマーニ)
菊地凛子(モリ・マコ)
ジン・ティエン(リーウェン・シャオ)
バーン・ゴーマン(ハーマン・ゴットリーブ博士)
アドリア・アルホナ(ジュールス・レジェス)
チャーリー・デイ(ニュート・ガイズラー)
マックス・チャン(チュアン長官)

あらすじ
10年後。あの戦いも過去のこととなっている世界で、リーウェン・シャオが率いる大企業が、無人操作のイェーガーの配備を決定。その発表の場に、正体不明のイェーガーが出現し、大パニックに。警備についていたジェイクとネイトのイェーガーも苦戦する。謎のイェーガーの正体。ある人物の暗躍。そして再び怪獣が…。

以下、内容に触れています。



感想
巨大ロボットと怪獣が激突する様を、圧倒的なロボ感満載の描写で見せ切った前作の中心人物であるギレルモ・デルトロが去ってしまい(製作には残っているが)、期待値が下がり気味となるのは仕方のないところ。個人的には、まあこんなものでしょうか…という感想となった。

冒頭部分での状況説明が、非常にダイジェスト的であるのは、前作と同じ。今回は、あれから10年後の世界情勢と、ペントコスト将軍の息子ジェイクが、父の存在を避けるようにして生活している裏街道人生の様子がさらりと紹介される。そこからジェイクと、勝手にイェーガーを作っている(違法行為)アマーラが出会う展開となる。逮捕されたジェイクは、処分を回避するために姉であるマコの命令で軍に戻ることになる。そこでは現在、新人パイロットの研修も行われており、指導しているのはジェイクのかつての相棒のネイトであった。

…という具合のドラマは、正直どうでもいいようなもの。加えて、新人たちの対立とか葛藤とかといったものを、一体何度見てきたことだろう。そしてまた、好きなジャンル映画を見続けるということは、この見飽きたドラマをまた何度も繰り返し見なければならないのか…と、暗澹たる気持ちになってしまう。ということは、この続編は、前作以上に若者向きの内容になっていると思われる。これから、このジャンルを始め、色々な映画やドラマと出会っていく人々のための作品だな、という印象である。彼らにとっては、新人パイロットたちの対立も、自分たちの物語として咀嚼出来るだろう。けれども個人的には、もうどうでもいいです…という気分。例え、ヴィクが前作のチェルノアルファのパイロット夫婦の娘だったとしてもだ(これ、劇中では一切判らない設定になっているけれど(ノベライズには出てくる)、さりげなくひと言入れるだけで印象がだいぶ変わっていたと思うのだが…。チームは家族なんだ、とネイトが言う場面があるが、あそこにいた新人パイロットたちに共通している背景を描かなかったことで、その言葉の意味が伝わらなくなっている)。誰が誰やら個性のまるで立たない有象無象状態では、彼らのドラマなど必要最低限の、それらしさを形作るためだけの装置にしか見えなくなってくる。しかし、ここに感情移入出来る人たちもいるはずで、それはすれっからしの大人ではなくて、子どもやティーンエイジャーということになるんじゃないかな、と。そういう人たちにとっては、ジェイクもネイトもアマーラも、ヒーローとなると思うのである。

また、ニュートが、最悪の事態を引き起こす張本人となるのもがっかり。前作の功労者を、次作で悪役にしたりあっさり死なせたりと、アメリカ映画はよくやるけれど、そういう話を期待しているわけではないのだが…。内部に悪役を設定するとか、そういうのもどうでもいいんだけどな…。面白い物を作ろうと積極的なあまり、ひねりを加えるのはいいけれど、違うところをひねっているとしか思えない。

レジェンダリーピクチャーズが、買収されて中国企業となっているためか、今回は、中国の存在がかなり強くアピールされている印象を持った。無人イェーガーの配備を世界中で行うというシャオ産業という企業のパワーがまず凄い。社長のリーウェンもなかなか腹を割らない、付き合いにくそうなタイプ。しかも被害者の振りをした黒幕のようにも見える。中国側におもねりながら、ハリウッド的な判り易い敵として、中国人をその役に置くというのも複雑だな…と思っていたら、リーウェンは後半で大活躍。企業人として真っ当、共に戦う仲間としても信頼のおける人、と最後の最後でいいところを持って行くのだった。これは、中国のお客さんは大喜びだったろう。日本企業がアメリカを席巻していた頃、こんな扱いのいい日本人って、映画に出たことあるかなあ。せいぜい「ダイ・ハード」のナカトミ社長くらいでは。リーウェンを演じているジン・ティエンは、「グレートウォール」「キングコング 髑髏島の巨神」と、レジェンダリー作品に立て続けに出演しているものの今一つ物足りない役回りだったのが、やっとちゃんと目立てたな、という感じ。よろこばしい。一方、チュアン長官役のマックス・チャンは、得意のカンフーを見せることなく退場してしまって残念至極…。

前作との差別化ということもあり、日中でのロボと怪獣の対決を描いているのは素晴らしい。正直なところ、クライマックスの東京決戦が、個人的にはこの映画のすべて。はっきり書いてしまえば、ここに至るまでは「退屈だな…」と思いながら見ていたのだ。それがこのクライマックスで一気に挽回。★★くらいだったのが、おかげで★★★という評価になった。が、特撮的な興奮はかなり減ってしまったなとも思った。前作の、ドシン、ガツン、といった擬音がもうほとんど感じられない。軽快に動きまわる姿に特撮ロボットの重量感は薄く、どこまでもアニメ的な印象になっているのも個人的には不満な理由だろうか。アニメみたいだからいけない、と言っているわけではない。アニメが見たいわけじゃないのだ。特撮映画を見たいのである。元々、いくつかあったデルトロのアイディアを一つにまとめて脚本化したらしい。そのアイディアは、アニメシリーズ用のものとも言われており、そう思うと、PPDCの基地から日本までロケットブースターでイェーガーが飛んでいくというのは、実にロボットアニメ的だなとも思う。特撮映画ではなくロボットアニメの実写化のように思えるのも、あながち的外れでもないのかもしれない。

それにしても、スケジュールの都合で、チャーリー・ハナムの再登場が叶わなかったのは仕方ないとはいえ、ローリー・ベケットの名前がほとんど出てこないのはちょっと首をかしげる。ペントコスト将軍が英雄扱いなら、共に自爆したチャック・ハンセンももっと語ってあげてよとも思う。写真の一枚も出てこないのは、無理がある。前作のファンを愉しませようという気がないのではなかろうか。続編を愉しみにするというのは、ロボと怪獣が愉しみなだけではないのだがな。続編ではあるけれども、その実、リメイクみたいなものかもしれない。

音楽も、ラミン・ジャヴァディからローン・バルフェに変わっている。テーマ曲こそ流れるものの、これもまた何か物足りないのだった。物凄く期待して臨んだわけではないし、それならばこれで充分という気もするものの、少々意気消沈しながら劇場を後にしました。