眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

黒い雪 ★★★

監督 マルティン・オダラ/2017/アルゼンチン=スペイン/NETFLIX/

妻ラウラを伴い、遺骨の埋葬のためにパタゴニアへ帰国したマルコス。埋葬する場所は父の遺言で、ホアンの隣に、というものだった。ホアンはまだ少年の頃、誤射によって死んでおり、その場所は遠い過去となってマルコスの記憶にはなかった。兄サルバドルは今も雪深い山中に一人で暮らしていたが、マルコスはどうしても兄に会いたくはなかった。何故なら…。

兄弟の確執が、雪の降る山奥でぶすぶすと燻り続けることで立ち込める緊張感。ラウラを含めて三人で食事する場面の冷ややかな空気など、落ち着かない気持ちにさせられる。何故ここまで兄弟の関係が断絶しているのか、それは彼らの言動の端々に滲んでも、決してはっきりと口にされることはない。それほどの禁忌となっているものが何であるか、不穏な過去と、険悪な兄弟の睨み合いとが交互に描写されていく過程がサスペンスを呼ぶ。真相自体は無論ショッキングなものではあるが、こちらに見えていることは、実はそのままではないのだろうという予想がついてしまうので、衝撃度はそれほどでも無くなるのが惜しまれる。むしろそのあとに、二人の妹サブリナの残したノートと、そこに挟まれていたメモから、ラウラとマルコスが今後の人生について下す決断が、嫌な後味を残して印象に残る。まるで観客に「黙っていて」と強要するかのように、ラウラがすっと視線を外しこちらを見つめる、一瞬のラストカットが素晴らしい。