眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

イレブン・ミニッツ ★★★★

監督 イエジー・スコリモフスキ/ポーランドアイルランド/2015/NETFLIX/

ワルシャワ。午後5時。映画のオーディションに出かけた妻を追いかけてホテルへ急ぐ夫。その妻にセックス接待を求める映画監督。ホットドッグ屋は、若い女性に非難され唾を吐きかけられる。登山家の男女は、ハードコアポルノに出ている知り合いを山へ招くことで相談。救急医療チームは妊娠している女性のもとへ、しかし行く手には荒くれ者が立ち塞がる。若者は質屋へ盗みに入り、自殺体を発見。ホットドッグ屋の息子はバイク便のドライバーで麻薬中毒…。いくつもの人生が、時にすれ違い交錯しながら、運命の5時11分へ向かう。

なんで最後のところを見せるんだろう。勿体ない。

空に現れているらしい謎の物体は、結局画面上に姿を見せることは無い。物語のうちの何人かはそれを認め、不安とも恐れともつかないような感情を覚えており、同様に不吉な予兆めいたものが、映画の中のあちらこちらに見えてくる。突然部屋に飛び込み鏡を割る鳥。エレベーター内を飛び交う謎の虫。壁を伝う染みは奇怪なことに上へ向かって伸びて行く。そしてその先には、冗談のような一瞬の出来事が、そして悲惨な大事故が待ち構えている。そんな不吉の芽はいたるところで芽吹き育っていると冷静に見据える視線が恐ろしい。ラストシーン、モニター画面が無数に分割されて巨大な一枚のグレーの画面になったときに、画面の右上に黒い染みが現れている。不吉の兆しは、世界のどこにでもある。ドライで冷やかな、世界に対する距離感。この世界の現実を見せつけられるようだ。81分という短い時間で、これだけの群像劇を一気に見せ切る脚本と演出の鋭さには、当時77歳というスコリモフスキの年齢から想像される枯れた色合いは一切ない。知力と体力があれば年齢など関係ないということか。