眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

タイのテレビCM 『silence of love』

Thai Life InsuranceのテレビCM。

この保険会社のCMは、他のどれも強烈に涙を誘うものばかり。ここまで来ると凶悪と言ってもいいかもしれない。しかしこれらのCMを見て思うのは、日本とタイの国民性の違い、死生観の違いだろう。病気で、事故で、色んな人たちがあっけなく死んでいく。それを正面から見せる。死をオブラートにくるまず、ありのままに差し出す。だからこそ、保険は大切ですよ、というわけである。一見、感動的な内容だが、実は非常に煽情的でもある。でも、日本の保険会社のCMのような、当たり障りのない柔らかい表現では、死の深刻さは伝わらないとも思うのだ。どっちが優れているということではないのだが、日本のCMは視聴者に対して、あまりにも過保護だとは思う。

まほう少女トメ(1)/作・武内優樹 画・おおひなたごう(エンターブレイン)

作・武内優樹とあっても、こちらからすればとりあえず、おおひなたごうの新刊である。月刊コミックビームでの連載を知らない者からすれば、当然いつものギャグ漫画を期待して読み始めるだろう。が、それが『鬼女の復讐』の冒頭ですぐに大きな間違いであると気付く。そう、これは本気で本格的なホラーマンガなのであった!

謎のまほう少女トメは、人の願いをひとつだけ叶えてくれる。誰もが幸福になりたいために願っても、それが決してそう結びつくことはない。『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造を思い出させるが、トメには願いをかなえた結果どうなるか、までは見えていない様子。ある意味では無邪気ともいえるが、軽く願っただけのことが重大な事態を引き起こすことを考えれば、トメによる破滅の方がダメージが大きい。無邪気や善意による破滅。だからこそより恐ろしい。

物語はバリエーションに富んでいるが、これは明らかに武内優樹の作りだす奇怪な発想の賜物だろう。しかも発想だけで終わらせず、きちんとその怪異を物語として紡いでいく。雰囲気や絵の凄惨さで逃げさせる容易さを頑として拒み、理詰めの作劇を目指しているところが立派。だからこそどの話にも読み応えがあるのだ(特に面白かったのは「マニアック」。いわゆるバカミスとしても読めるミステリ)。そして、恐怖と笑いが紙一重とはよく言われるが、おおひなたごうはそれをきちんと受け止めていて、これまでのギャグ漫画とは違う地平を切り拓いてしまっている(といってもところどころに変な笑いも入っているし、「蘇生」の「火葬されてやる!」とかは結構微妙なところ)。が、これまでの作品もある意味不条理な世界でもあったわけで、元々本格的なホラーとはきわめて近いところにいたのかもしれない。まるで気付いていなかったが。これでまた愉しみな作品が出来た。続きに期待したい。

この愛のために撃て 感想


監督はフレッド・カヴァイエ。2010年のフランス映画。

前作の『すべて彼女のために』は未見で、そのリメイクが9月に日本でも公開される。そっちはポール・ハギスが監督でラッセル・クロウ主演。しかし『この愛のために撃て』を見てみると、ハギスに撮らせず自身でリメイクさせた方が良いのではないか、と思えてならなかった。カヴァイエ、そのうちハリウッドで撮るね、間違いなく。そう確信してしまったほど、この作品は面白い。85分というタイトな上映時間に詰め込めるだけのものを突っ込んで、しかもまるでダレさせずに一気に疾走するサマは、ハリウッド映画の叩き台になるためにあるかのような凄まじさである。

筋立てそのものは単純だが、登場人物が多い上に彼らは右往左往するので、ストレートな追跡劇にならず、意外と波瀾に富んだ複雑な模様を形作る。物語の意外性ではなくて物語り方のテクニックで、観客を引きつけ引っ張る辺りが見事。アクション描写がこの作品の大きな魅力だが(地下鉄駅構内の追跡!)、語り方のうまさ、という点は見過ごせない(脚本はカヴァイエとギョーム・ルマンの共同)。が、反面登場人物の心情面がその犠牲になった感があり、「フレンチノワール」と言い難い気がするのはその点で物足りなさが残るためだ。看護助手のジル・ルルーシュと犯罪者のロシュディ・ゼムの関係も、あれくらいでいい、という意見もあるだろうが、やはりもう少し踏み込んでほしい。また、ルルーシュは、事件に巻き込まれると、ただの人の割には容易に人を傷つけたり、銃を撃ったりして、そこにほとんど迷いがないのも疑問に思う。どこにでもいる普通の男、ということになっているらしいが、とてもそんな風には見えず、むしろ過去に何か後ろ暗いところがあったのではないかと、そんな風に思ってみてしまったよ。前科はない、と身元確認で言われてるけど。ま、無い物ねだりだろうか。

あとクライマックスで、「トイレでもみあう嫁と女性刑事のところへルルーシュが助けにくるシーンはつながりがおかしくないだろうか。妻を探して警察署内を探して回るうちに警官と殴り合いになり、床に倒れたところで鉄アレイみたいなのを見つけるカットの次に、トイレの場面に繋がっているのだが、あまりにも突然過ぎるルルーシュの登場に、どうしてそこに妻がいるのか判ったのか、その説明がない。もしかしてフィルムを噛んじゃってちょっと飛んでしまった上映ミスか?とも思うのだが、どうなんでしょうか?」本当に面白いこの映画の中で、そのシーンだけがちょっと気になって、実際のところどうなのか、と。そこを除けば、あとはもう言うことなしのノンストップアクション映画。どうしてもっと話題になっていないのか、ならないのかが不思議であり残念でならない。