眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

10月9日(土)

オリヒメ」読了。ふくやまけいこは、リュウに「エリス&アメリ」が連載されていた頃から読んでいるくらい、ずっと好きな漫画家のひとり。雑誌連載は追いかけていないけれど単行本は常に新刊で買っている。しかしながらここ数年、どうも乗り切れないものを感じていた。「なかよし」など少女誌での連載だからか?と思ったり、その一方で「ナノトリノ」のようなものがあったりしてもピンと来ず、決して退屈しているわけではないけれども、どうも今一つ…。それが、個人的な趣味の問題なのか、あるいは初期から読んでいる人間が抱える不満なのかは判らない。もしかすると、東京物語以降の作風によってファンになった人たちには何も気になるところがないのかもしれないし。だから、今回もそれほど期待していたわけではない。が。本当に久しぶりに、ふくやまけいこはやっぱり良いなあ、と心から本気で思える作品集だった。その感激はへのへの以来と言ってもいいかもしれない。収録されているのは「ふくやま童話」として連載されたもので、個人的には初めて読む作品ばかり。5ページの短い作品たちなのだが、これがもうどうしようもなく良い。SFでもファンタジーでもないのに、その雰囲気があったりするのも良い。最後のひとこまにだけ描かれる天使の姿だけで匂い立つようなファンタジーの香りがあったりもする。個人的には「ぜんまい」と「とめてください」の2本にやられました。ふくやまけいこは短編が良いのに、どうして長編ばっかり描くのだろう、と思っていたが、ちゃんと描いておられたのですね。それを判っている編集者がいたのだな、ということにも感動した。ノスタルジックで微笑ましいが、それだけではない。年を重ねた分、人生の重みも感じられる作品が揃っている。郷愁とは、若い頃には決して描くことは出来ない。大人になってからでないと、失ったものを慈しむことは出来ないのだ。しかも懐かしむだけではない。それがちゃんと未来の、現在の肯定に繋がっている。一見繊細な世界、その中にある両足できちんと地面を踏みしめる力強さが、ふわふわしただけの作品とは違う、ふくやまけいこのここでの素晴らしさだ。本当に、本当に素晴らしい。是非とも手にとってもらいたい一冊である。