眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

コンラッド・ハーストの正体/ケヴィン・ウィグノール/松本剛史訳(新潮文庫)


犯罪組織の為に殺しを続けたコンラッドは、あるきっかけで仕事を辞めると決意。自分の存在を知る4人を殺してしまえば、それで自由の身になれると思い行動に移るが、思わぬ方向へ事態は進展していく…。

ノワールものっぽい始まり方をするが、話のスケールはそのあとぐっと大きくなり謀略ものの匂いをさせはじめる。が、コンラッドが凄腕の殺し屋ではあってもそれは非情である、という点だけでそうなのであって、たとえばジェイソン・ボーンのような超人ではなくて、どちらかと言えば凡人なのが面白いポイントだと思う。だから、その謀略が何を意味しているのかに全く辿り着けず、最後まで迷走する感じがあり、読者もそれに巻き込まれて、どこか間抜けな復讐につきあう羽目になる。設定の割に、真っ向勝負のサスペンス小説ではなく、その微妙な外し方からして、いわばオフビートなノワールもの的な風合のある作品で、よって感想も少々煙に巻かれたような、なんだか変なものを読んだな?という気分。エピローグで語られる話は、あまりにもあんまりなことなので、悲劇というよりも喜劇のようで、すべてがキツいブラックジョークのように思えてくる。そんな愉しさ。