眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

クリント・イーストウッド ハリウッド最後の伝説/マーク・エリオット(笹森みわこ・早川麻百合訳)/早川書房


イーストウッドは大好きな俳優であり映画監督なのだが、そのキャリアは大雑把にしか知らず(映画ファン的一般教養レベル)、ここらで彼の人生をざっとしかしもう少し深く知りたいと思って手に取った。イーストウッド自身へのインタビューではなく、彼の周囲の人々に取材し、雑誌や事件や騒動での発言や資料などでまとめた客観度の高い内容なのが面白い。なので決して『イーストウッドは素晴らしい映画人である』という判り切った内容ではなく、むしろゴシップの世界では色んなネタを提供してくれた非常にスキャンダラスな存在であることが如実に、事実として冷ややかに描写されており、ここが何と言っても読みどころ。が、著者の姿勢としては、人間・イーストウッドには疑問を覚えても、作品、監督、俳優としてのイーストウッドへのリスペクトが根底にあるので、その辺でバランスを取っている…とはいえ、若い頃から男前で人気があり、軍隊に入っても戦場には出ずチャラチャラした日々を送り、その後俳優になってからは、世話になった人間も自分のキャリアにはもう必要なしと判断するとあっさり切り捨て、妻がいるのに他の女たちとの浮気の連続、愛人にも子供を産ませ、あげくにソンドラ・ロックに訴えられる最悪の事態、となればやっぱり否定的にとらえるのは仕方のない話。この世の多くの人生とは縁遠すぎるワイルドな歩みには、多少の偏見ややっかみが混じっても仕方がないところだろう。特にソンドラ・ロックとの泥仕合の部分に関しては、著者も若干ソンドラの側に立っているように読める。しかしこの裁判、双方にとって精神的にも物理的にもダメージが大きすぎるのがよく判り、本当に読んでいて気が滅入った。

映画ファン的に愉しいのは、作品の成り立ちや裏側といったゴシップこみのメイキングとしての部分で、『荒鷲の要塞』制作時の話や、『戦略大作戦』が本当はどんな映画になるはずだったかといった話など知らなかった話が続々と出てきて、そこも非常に興味深く面白い。あまりにもイーストウッドを神格化し過ぎる現在(まあスキャンダラスなだけに逆に神格化されるところもあるのかもな)に、それだけの人じゃないんだよと彼の人生を総ざらいしてくれる愉しめる一冊。