眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

歓待


シネヌーヴォXにて。
脚本・監督・編集は深田晃司。下町の印刷所にあれよあれよと言う間に入り込んだ謎の男によって、ある一家が直面する異常事態。簡単なあらすじをなぞると、コメディ以外の何物でもないというものだが、そこに社会派な題材を溶け込ませている。

インコを探しています、の貼り紙をみて、謎の男・加川(古舘寛治が怪演。素晴らしい!)が小林の家にやってくる。彼は得体のしれない人物で、小林家をひっかきまわし、混乱させ、罠にかけ、己の目的のために怪しげな行動を取り続ける。その過程の可笑しさはこれは見てもらうしかないのだが、えっ?と思わず耳を疑うような言動と行動で、にやにやさせつつ時には爆笑さえ誘う。カオスのような印刷所でのクライマックスは異様なまでの盛り上がりを見せる。ブラックな冷ややかさと、反面、そこに至って初めて手にしたものの温かさが混じり合う不思議な昂揚感があり、それがいさぎよくスパッと終局を迎える場面も軽快でスピード感があり、気持ちいい。

冒頭で河川敷に作られたホームレスのブルーシートの家が映し出され、劇中でもホームレスの排除を町内会の集まりで報告するくだりがあったりするのだが、その反面ホームレスは全く姿を見せない。主人公一家である小林家では、一人娘の飼っているインコがいなくなる。主人である幹夫(山内健司)には若くてきれいな嫁・夏希(杉野希妃)がいる。が、彼女は再婚相手で、この家には実質的には妻、娘にとっての母親が存在していない。幹夫の妹は離婚して出戻っている。という具合に最初から、登場人物も、背景となる街にも、喪失した何か、が存在している。そこに見えているのに、見えないものとして扱われているもの、こと。あるいは見えていない、形としては存在していないのに、心でその存在を確信出来るもの、こと。映画はその相反する状況をじわじわとドラマの中に滲ませて、平成23年の日本の状況を鮮やかに切り取っていく。インコが戻ってくるラストも、単に幸福な結末を意味せず、実は『違うインコを買ってきた』、というところにねじれたものがあり、しかしそこにこそ今現在の日本の希望の形が描かれているのだと思う。それでいいのだ、という一種あきらめにも似た自由さ。なるようになると信じることで世界は変わるのだ。