眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ムカデ人間


シネリーブル梅田にて。

監督はトム・シックス。不謹慎だ何だと話題(一部で)のホラー映画。

どう考えても人間を三人繋げたらすぐ死んじゃうはずなのに、ディーター・ラーザー演じるヨーゼフ・ハイター博士の狂気の願望が実現される恐るべき物語。徐々に狂うのではなくとっくに狂っている異常者で、ロトワイラーを三頭繋げていたのに死なれて、ありし日の写真をみてポロポロ泣いている冒頭からして異常さがはみ出している。犠牲になるのは道に迷った女性二人の旅行者と、何故か日本人の青年。ベッドに縛り付けられた彼らの前で、滔々とこれからやる手術のことを語るハイター博士の姿は自信と興奮に満ち溢れ、何処をどう切り、どうつなげるかと冷静に説明されると、さすがに薄ら寒い気持ちになってきて、ここにホラー映画の醍醐味がある。見る側の下劣で下品な期待としては、その手術の様子をどう見せるのかということ、また繋げられた肛門と口をどう見せるのか、という2点になるのだが、手術シーンもあっさりしたものだし(でも歯を抜くところがちょっとキツイか)、一番期待した接合部分は包帯でくるまれててちっとも見えないんですよこれ!あまりにもアンモラルゆえ表現出来なかったのか?、とも思えば恐ろしくも感じるが、実際には低予算なのでそこまで特殊メイクに割く費用がなかっただけの話しなんだろう。これが惜しい。ここをちゃんとやってれば本当に悪趣味な映画になっていたのに。

そんな悲惨な状態になっても3人は必死に博士の屋敷からの脱出を図ろうとし、終盤になって刑事が事件にかかわりはじめてサスペンス的にも次第に面白みを増していく。そして「邸内を逃げる3人と足にメスを刺されて這って彼らを追いかける博士、という映画史上でも一、二を争うであろう低スピードの追撃」が展開する、阿鼻叫喚といってもいいクライマックス。カタストロフへ突進したあとは、後味の悪さが静かに余韻として残るのであった…。不謹慎、悪趣味と言われながらも、映画としてはそれなりにまともな娯楽映画でした。

日本人青年を演じるのは北村昭博ムカデ人間の先頭ということもあり、台詞も多いのだが(あとの二人はもごもご言ってるだけ)すべて日本語。しかもどうやらオランダ語字幕は打ち込まれておらず、本国では彼の台詞が理解出来ないと思われる。理解出来ないから生まれる緊張感もあると思うが、クライマックスでの彼の台詞はそれなりにドラマティックなので、それはちょっとどうなんだろう、と余計な心配をしてみたりした。旅行者二人はアシュリー・C・ウィリアムズとアシュリン・イェニー。個人的にはちょっとぽっちゃりしたアシュリーが好き。そしてディーター・ラーザー。スタイリッシュな身のこなしがなんともカッコよい。何よりもその眼力に圧倒される。冷徹冷血な表情と、いきなり怒声をあげるあたりの振り幅の大きさも迫力があり、久々にインパクトのあるホラー映画の怪物を見た。