眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

コクリコ坂から


アポロシネマ8にて。

監督は宮崎吾郎。企画・脚本は父親の宮崎駿。どうやら想像していたよりも観客動員の延びが良くないようで、それは宮崎吾郎という名前ゆえのものなのか(『ゲド戦記』のせいで)、それともファンタジー要素のない地味な内容だからなのか、そこが気になるところ。『アリエッティ』はそれなりの動員だったのでその違いはどこにあるのか。ジブリのアニメーションにはファンタジー要素がかかせない、と観客の多くは思っているということなのだろうか。だとしたら君らは今まで一体何を見て来たんだと言いたくなる。ま、いい加減、飽きてきました、という意見ならば、なるほど、と納得出来るんだが。

昭和38年の横浜を舞台にした青春模様。タイトルに「坂」と入っていることもあるのか、高低差を見上げる、見降ろす、という視線が意味が持ち、その先にある視線の交錯が非常に丁寧に描かれている。見つめる、そらす、あるいは無視する、という一連の動きにも無駄がない。台詞も説明過多になり過ぎないところで抑えられ、簡潔に物語ろうするスタイルは意外にも軽快でもあり、あれもこれもと欲張っていないシンプルさが好ましい。そしていつものジブリアニメの楽しさもある。特にカルチェラタンの掃除の場面にはその楽しさが横溢しており、単純に見ていて嬉しくなる。

視線の位置に差があった主人公二人の関係が、クライマックスで同じ位置になり、ラストには同じ視線を獲得する姿が感動的。正直あまり期待していなかったせいもあろうが、思っていたよりも格段に素晴らしかった。良い作品だ。