眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「盗聴犯 死のインサイダー取引」「盗聴犯 狙われたブローカー」 感想

於:シネマート心斎橋

脚本・監督はアラン・マックフェリックス・チョン。『死のインサイダー取引』が2009年、『狙われたブローカー』が2011年の香港映画。

『死のインサイダー取引はストレートな犯罪捜査もので、主役の3人、ラウ・チンワン、ルイス・クー、ダニエル・ウーのそれぞれが抱える人生模様を的確に描きながら、ある企業の不正株取引の証拠を押さえるために戦う彼らの姿も描き…しかし中盤で映画は方向を変えて破滅に突進していく。積極的に行動するルイスとダニエルとは違い、ラウチンは引きずられるような形で巻き込まれるが、しかしどこか煮え切らない感じの彼ゆえにそれは必然だったのかもしれないと思わせる無常感があり、静かな迫力がある。しかも彼の、事を荒立てまいする自己表明の曖昧な姿勢が、実はこの事態全体のきっかけとなり決着となる、というのが皮肉な面白さである。また、いろんなことが一気に押し寄せるクライマックスの怒涛の展開が圧巻だが、結末の着け方、香港製犯罪映画の絶望への寄り添い方に痺れた。

『狙われたブローカー』は、もっと正面から株取引に絡む巨悪(…といってもあまり現実的な感じはなく、香港犯罪映画らしい悪という感じ。だって敵のボスがケネス・ツァンだし…)を描いているのが興味深く、その中の一人(ラウチン)、戦いを挑んだ一人(ダニエル)、彼らを追いかける一人(ルイス)、という人物配置のバランスの良さ、それぞれが絡み合って展開するクライマックスのサスペンスなどは上出来といっていい。株に関する知識がないとちょっと混乱するけれど、それでもなお面白さが勝る、というのが素晴らしい。『死のインサイダー取引』が諸行無常の冷ややかさに重きを置いているのに対して、『狙われたブローカー』には明確な決着点があり、そこへ向かって進む娯楽映画としての推進力が高く、痛快ささえある。英雄片的なヒロイックさも加わり、ラストシーンにもホロリとさせられた。

ここでも儲け役はラウチン。地主会と言われる株の世界を牛耳る重鎮たちの中に、ある事情で入ってしまった男の役。ふだんのふてぶてしさもまるで役に立たない、縮こまって目が泳いだ状態の落ち着かない感じなどに、達者な演技が光る。

シリーズもののようだが全く関係はなく、実は映画の方向性も全然違う2本。姉妹編、という感じだろうか。どちらも面白かったが、あえてどちらか、と言われれば、『狙われたブローカー』かな。