眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「ナイトピープル」をみる

シネマート心斎橋で『ナイトピープル』。初日入場者プレゼントでペットボトルの水をもらいました。

原作は逢坂剛の『都会の野獣』…といっても未読なのでなんとも言えない…が、映画は原作に更にアレンジを加えているという。原作はどこで終わっているのかが逆に興味を抱かせる。

地方都市を舞台に、ナイトピープルというバーを経営している男(北村一輝)が主人公で、店にアルバイトで入った女(佐藤江梨子)に次第に惚れて行くものの、怪しげな男(杉本哲太)の出現でにわかに雲行きのおかしなことに巻き込まれていく…。当然、フィルムノワールライクな、ファムファタルによって運命を狂わされ破滅していく男のドラマを半ば期待しつつ観ることになるわけだが…。以下ネタばれしているかも

これが意外なことに意外なのであった。というのも、北村一輝が登場して、佐藤江梨子の面接をして、彼女が働いているのをみているところや、腐れ縁の女(若村麻由美)と接しているところなど、いい意味で非常に軽いのである。話が展開にしていくにつれ、色々と、えっというようなことも起きるのだが、そこらでも北村一輝の芝居やリアクションは終始軽く、過去にチンピラまがいのことをしていたというのに凄味を感じさせるところはほとんどない。変なことにいやいやながら巻き込まれてしまった男の不運さ、それでもそれを飄々として乗り切ろうとする軽やかさが印象に残る一方で、破滅していく男にはまるでならない。佐藤江梨子にしても、後ろ暗いことを抱えている女として登場しながら、これまた展開していくうちに、サトエリとしてのパブリックイメージに近いところが次第に浮き上がってきて、先日の『ビブリア古書堂の事件手帖』でのゲストほどのことはないにしても、所謂〝運命の女"としての絶対的なものにはあまり近づくことはない。加えて、若村麻由美が演じる謎の女、主人公たちを追撃する元ヤクザの三元雅芸、彼らの存在も最初の想像とは大きくぶれて、あれ?そんな感じになるの?…という具合に、どんどんずれていく。といってもそれが良い意味で、というのがこの作品の面白さなのだった。フィルムノワールではなく、ストレートなサスペンス映画になっている。

どんでん返し的には、この手のものに慣れている人はそれほど驚くことはないだろうと思うのだが(個人的には、えっ、そういう話だったのかと驚いたのだが。単純すぎる)、むしろそういうことはクライマックス前に終わらせて、あとを銃撃戦にしたところが潔く、また娯楽映画的に大変に盛り上がる見せ場に仕立ててあって嬉しい。主に山梨県で撮影されたらしいのだが、非常に閑散とした風景が地方都市のうら寂しさとして撮られているのも味わいがあり、言わば荒涼とした土地(言い過ぎか。山梨の人、すみません)で、裏切りと復讐とが淡々と起きて行くのも如何にも、といった風情があり、ましてそれが爆発するシャッター商店街での銃撃戦たるや、スタイリッシュでもなんでもない感じが逆に殺伐とした感じを濃厚にさせて、これは良い感じだった。

俳優たちが皆好演で、それは適材適所なキャスティングということもあるが、それぞれの俳優の良い部分を見せよう、という製作陣の頑張りが大きいのではないかな。北村一輝の軽さとチャーミングさ、佐藤江梨子の可愛らしさと蓮っ葉(死語か)な加減、若村麻由美のハードボイルドぶり!かっこよすぎる!彼女の秘書?らしき阪田マサノブは台詞がないのにあれだけの大活躍。先日の『相棒』では息子とうまく交流出来ない父親を演じていたが、なるほどこんな感じにもなるんだね、と。ちゃんと動ける三元雅芸はなんといっても体のキレが素晴らしく、これからもっと露出してもらいたい俳優さんだ。中華料理屋で反撃する場面が良かった。杉本哲太の食えない感じはもうお手の物の手堅さだったし。とえらく褒めていることに自分でも驚いているが、画つくりとしては安易な部分も感じられ、それが映画全体の重みのなさに繋がっているのはやはり勿体ない。色々事情はあろうが、パフォーマンスそれ自体に文句はなくとも、和火の方たちがあんなに出てくるのはどうかと思ったし、監督自身は入魂の北村一輝がもだえる場面も、わたしはあまり感心しなかった。などの不満もあるのだが、北村・佐藤のラブシーンでは、女性器のようにも見える傷跡へのキスに意味合いが重ねられているようだったり、転んだり返り血を浴びたりしているはずなのに白いコートがまるで汚れない佐藤江梨子に一種の聖性みたいなものを託しているようだったりして、そんな含みがあるのも面白くて、全体としては楽しく見ることが出来、ラストシーンに至っては『絵に描いたような、困ってしまうようなハッピーエンディングぶりで、なんとも堂々とやってくれたものだな、とニコニコになってしまうのであった。監督自身が語っているが、意識してそうしたんだなあ。それには納得するところもある。深くうなだれる映画がある一方で、この作品のような前向きで明るい映画があっていい』。

門井肇監督のインタビューがこちらで読めます。なるほどそういうことかと思うお話もあります(→http://cineref.com/report/2013/02/post-91.html)