眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「アウトロー」をみる

アポロシネマ8で『アウトロー』。

冒頭、怪しげな車を追うカメラ。銃弾に手を加える男の後ろ姿、川をはさんでビルの向かい側の駐車場に車をとめ、銃を構えて無造作に道行く人々を射殺していく様子、現場に到着した警察と、遺留品の発見、そして逮捕…と、簡潔に見せて行くのがまず素晴らしい。『ダーティハリー』を意識したと思しき始まり方がなんとも嬉しい気持ちにさせてくれるが、取調室に至るまでの間、台詞なしというのは昨今のハリウッド映画的にはかなり抑制された見せ方。ましてトム・クルーズ主演作品となればなおのこと。この作品はアメリカでは大ヒットにはならず日本においても同様なようで、それに加えて作品の評価的にも芳しくない声が多く聞かれるようだがそれは当たり前の話で、70年代回帰を目指すような映画を今の観客がどうして受け入れることが出来ようかということである。登場人物の心理のゆらぎには深く入り込まず(ロザムンド・パイクと父親との絡みには多少あるが)、簡潔な台詞で話をすすめ、状況を画で説明し…最近のハリウッド映画が捨ててしまったものでこの映画は成り立っている。そのくせ上映時間が2時間を越えているのは納得がいかない部分でもあるが、そこは監督のクリストファー・マッカリーのテンポや独特のユーモアゆえということであろう。まあ往年の職人監督たちなら90分でエンドマークだろうし、それならもっと痛快だったと思うけれど。そこを冗長だということも出来るが、それくらいは個性として許容出来るところだ。別にわたしは70年代に戻りたいわけでもない。でもマッカリーが指向するのはその70年代のテイストであり、過剰になるアクションや特撮、どこまでもインフレ化していく娯楽映画へのカウンターとして作られているのは明白であり、現状をどこか苦々しく感じているわたしのような人間にはたまらない作品であった。中盤のカーチェイスには、爆発や物量やごまかしのカット割りなどではない生々しい車のぶつかりあいがあり、決着がつかずに終わる締め方のうまさなど、最近はおまけとしてしか機能していないカーチェイスをきちんと見せ場にしてドラマとしての面白さにも加えるなど、なかなか出来るものではない(予告編で見せてしまっているのが勿体ない)。あと、理屈で全てを割り切ろうとしていないのもいい。ロバート・デュヴァルヴェルナー・ヘルツォークを使い、彼らの顔と佇まいがあれば、背景など必要がない。ドラマとしてのつじつまあわせもしない。物語などそれほど重要ではないからだ。物語のつじつまが完璧に合うことと、映画の面白さはイコールでは結べない。とはいえ、世間がそれほどこのような映画を求めているわけではないことは、興行成績としてはっきり出ている。残念ではあるが、たまにこんな根性の据わった映画を作ってもらいたいものだ。そういう意味でマッカリーとトム・クルーズには期待している。