「セル」 感想
『セル』(スティーヴン・キング/新潮文庫)を読む。
最初に「リチャード・マシスンとジョージ・ロメロに」とある。生者と死者の時間が入れ替わるのはまさしくマシスンの『地球最後の男」だし、死者の風体はまんまゾンビめいている。といってもロメロが作り出したゾンビとは違い昨今流行の、疫病によって凶暴になった人パターンなのだが、それだけでもない。おそらくここで描かれているゾンビ像というのはあまりない(あったらごめん)。そもそものゾンビというものが、操り人形のようなものであることを考慮すれば、なるほどとも思えないこともないが。ただ、ロメロの名前を出している割には、そういった愉しみ方(要するに人間に襲いかかって肉を食うということ!)はあまり出来ない内容なのがちょっと残念…とはいえ、かつては一緒に仕事をしたことがあるロメロの名前が冒頭に出てくるだけでも、ホラー映画ファンとしてはグッとくるものがある。
異変が生じて街がパニックになる辺りは物凄いハイペース、ハイスピードの展開。あれよあれよという間に最悪の事態へと世界が崩壊していくさまが凄まじい。が、登場人物が揃い、彼らが街を脱出しようと旅を始めるとロードノベルとなり…と、それはいいのだが、ゾンビたちが何をしようとしているのか、また奴らを統率するかのごときボスのようなゾンビの出現…リアルなパニック小説を想像していたら次第にファンタジーな展開になっていくのだった。そこはもうお好みで、というしかあるまい。ファンタジーだと最初から判っていたらまた印象が違ったかもしれないが。