眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『藁の楯』をみる

アポロシネマ8にて。

凶悪で最悪な殺人犯を福岡から東京まで護送するSPの物語。殺人犯の首には10億円の懸賞金がかけられて、行く先々に妨害の手が広がり、しかもこちらの居場所が何故かネットにアップされてしまっている。敵は味方の中にもいる!

台詞で済まされてしまう描写が多い。状況や背景まで台詞で説明してくる。例えば、実はこの人はこういう経歴で、こういう過去があってね…と岸谷悟朗が説明してくれるのだ。設定そのものが大掛かりな嘘なので、みている間だけでも突っ込ませまいと作り手は考慮していると思うのだが、その代わりに説明が全編を貫くことになってしまっている印象を受けた。説明が過ぎるとスピードが落ちるうえ、くどくなる。そのくせ、格差社会をにらんだ襲撃者たちの背景もさらりとかわされ、何が正義で何が悪かのドラマの軸も弱過ぎて、薄っぺらく感じてしまう。藤原竜也が最悪の犯人役ということだが、この程度の描写ではみていてもまるで腹が立たない。変態性も暴力性もあまり感じられない。もっと不愉快な気持ちにさせて、観客がこいつ殺してしまえよ、と思えなければ、対する大沢たかおの正義のゆらぎには説得力は生まれない。

前半の、次々に何かが起こる派手な見せ場と、護送方法を変更していくのは面白かった。後半で足が無くなり、人も減り、だんだんしょぼくなるのはこの手の映画の定番のような展開だがそれ自体は悪くないしむしろ個人的には好み。好みでいえば、90分でリチャード・フライシャーが撮るような映画だったら文句なしだったろう。

あと俳優の芝居が大げさすぎて辟易。岸谷悟朗と永山絢斗が、いくら腹にいちもつあるかもしれぬ人間ではあってもちょっとつらい。でも永山は、タンクローリーの場面の活躍のあと、こっちに戻って来る場面の表情や仕草に、すごいことをやってのけたけど、いやこれ、仕事だし、的な風を装った感じがすごく薄っぺらくて、演技なのか素なのか判らないけど、中身の薄い刑事を浮き彫りにする瞬間を映画はとらえていた。あと、藤原竜也は、新幹線内で松嶋菜々子に声をかけても無視されると、すぅっと一気に引いていく辺りの手前勝手さが冷ややかでよかった。それからラストの「すげえ」も。