眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『アップサイドダウン 重力の恋人』をみる

監督・脚本はフアン・ソラナス


上下に連なる二つの惑星。上が下から搾取し繁栄し、下は下層市民が住む世界。というだけなら普通だが、面白いのはそれぞれの星の重力にひっぱられているという世界なので、片方からは天地をひっくり返した世界になる、ということ(アレックス・マクダウェルの素晴らしい仕事)。下の人間が上にいくと、その世界の重力にはとらえられず、逆さまのまま、という非常にファンタスティックな世界観であり、それを具体的な描写として見せていくところが面白くも奇妙、そしてびっしり立ち並ぶ高層ビル群が上空に輝く巨大なシャンデリアのようにも見える壮観さが美しい。

物語は上の世界の住人エデンと、下の世界のアダム(なんというあかさらまな名前!)による身分違いの恋の話であり、これがピュアな純愛であることも嬉しい。悪役として設定されている上の世界の巨大企業や主人公の上司など、また二つの世界をひとつにしようとするある計画などにはドラマの力点はほとんどおかれておらず、他にも色々と社会問題を含んだ寓意性を持ち込もうとしているけれど、むしろ主人公たちを助ける回りの人間たちの優しさや温かさや、ふたりのやりとり、もやもやした心情などにこそドラマの主眼があり、絵本をひらくような夢幻的な世界の描写とスケール感と合わせて、のんびりとほほえましくながめているのが愉しい、愛すべき一本。結果としてこういう未来がくればいいなあ、と思いながらみた。

アダムを演じるジム・スタージェスの嫌みのなさが作品のカラーを決定づけるほど軽やかなのがいい。エデンはキルステン・ダンスト、記憶を失ったという設定ゆえだろう、少女っぽさの残る表情が全開で、実際の年齢のことを考えれば少々無理があるくらいだけども、こちらも近年にない可愛らしさ。

設定のあいまいさのために、どうやら評価は割れ気味だが、わたしは大好き。今年は『クラウド・アトラス』『オブリビオン』『パシフィック・リム』など、SF、ファンタジー映画に見ごたえのあるものがあっていいな。