眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『バイロケーション』をよむ

法条遥・著。角川文庫・2010年の出版。

映画と比較するために読んでみた。確認作業のような読み方になってしまい、作者には申し訳ないと思いながら。

一番の違いは、御手洗、門倉、高村勝の設定。御手洗は老齢の医者、門倉は秘書、高村勝は、映画より直情型で何よりも弱視ではない。御手洗を千賀健永が演じるとなると、原作の御手洗の選択は無理があるので、となると必然的に門倉の設定も変えざるを得なかったと思われる。勝に関しては、いくらなんでも忍のバイロケーションに気付くのではないか、という疑問があったのではないか。ミスディレクション的な意味でも、見える・見えないの物語という点でも、うまく変更されていると思った。この3人は、映画の方が、より現実に即したリアリティのある人物像になっている。キャスティングに左右された結果なのかもしれないが。

作品自体はあまりホラー色は強くなく(中盤で加納のバイロケーションが出てくるところは如何にもな場面で愉しいが)、バイロケーションという設定のみがホラーらしいだけで、話の進め方はサスペンスを基調とし、後半はミステリとしての要素が濃い。更にそこに描かれるのは一人の女の悲劇であって、ラストの切なさには、何処にも恐怖・怪奇趣味はない。映画は原作のそういう味わいをガラリと変えたりはしていない。御手洗・門倉については設定そのものが原作と違っているので変更されているが、あとは細部の違いくらいで、大筋ではそれほど違いはない。まあ、他にもあるといえばあるがネタばれなので書かない。映画に付け加えられていることで気になるのは、加賀美がマフラーをとってみせた顔に傷がある、というところか。どちらが優れている、ということはなく、どちらもちゃんとしている。遜色はない。よい映画化だったと思う。